杉浦日向子の部屋

『合葬』で生き残ったのは誰だ?

杉浦日向子さんの初期の傑作と評判が高い『合葬』である。 ブログ記事「杉浦日向子アルバム」を書いたついでに読み返してみて、 ひとつ「謎」が残った。 手元にあるのはちくま文庫版である。 『合葬』はマンガ誌「ガロ」に連載(1982・7月号~1983…

杉浦日向子アルバム(5)

雑誌「ユリイカ」杉浦日向子総特集号から写真のアルバムを紹介してきたが、 これを最後にしよう。 写真は兄の写真家鈴木雅也さんののスタジオで、雅也さんが撮った41歳の日向子さん。 サブタイトルに、「ごくらくちんみ」のネタ・とうふようとグラッパをの…

杉浦日向子アルバム(4)

雑誌取材で撮った写真。 美人といわれたのも納得できる写真である。 マンガ家の南伸坊さんが「利発な女の子」という文章を寄稿している。 日向子さんの「ふしぎな雰囲気」について書いているので紹介する。 「杉浦さんは明るく活発なところもあったらしいけ…

杉浦日向子アルバム(3)

杉浦日向子さんのアルバムを続けよう。 雑誌取材で撮った彼女の仕事場でのスナップ。 ちょっと照れた表情とポーズ。 マンガ家の仕事場というよりか、若い時代考証家の書斎といった背景である。 書棚にあるのは江戸時代の研究書や文献ばかりで、マンガ本は見…

杉浦日向子アルバム(2)

雑誌「ユリイカ」臨時増刊号から、マンガ家杉浦日向子さんの写真紹介をつづけよう。 ほとんどの写真はカメラマンである五歳上の実兄鈴木雅也さんが撮ったもの。 杉浦さんが亡くなったのは、2005年7月22日、午前4時25分だった。 享年46歳7ヶ月、…

杉浦日向子アルバム(1)

雑誌「ユリイカ」の杉浦日向子特集号を手に入れた。 彼女は2005年7月22日に病没したが、この「ユリイカ」臨時増刊号が発行されたのは 2008年10月15日。その第三刷(2009年4月10日)を手に入れたもの。 彼女の実兄で写真家の鈴木雅也さ…

杉浦日向子「風流江戸雀」

1988年に文春漫画賞を受賞した作品です。 「風流江戸雀」に12ヶ月の各月ごとに1話で、しめて12話。1話がきっちり4ページ。 「古川柳 つま楊枝」(Ⅰ)が10話。(Ⅱ)が10話、そして(Ⅲ)が11話。 トータル43話がたっぷり楽しめる1冊。 ど…

杉浦日向子の「井上安治」

杉浦日向子さん(1958~2005)の没後、まもなく4年になる。 彼女の代表作は『百日紅』であり『百物語』の長編、連作であるが、小品にもうれしくなるような 逸品がある。 この『YASUJI東京』もそうした作品である。 YASUJIとは明治期の…

『百日紅』(12)再会

若い頃、歌麿の美人画のモデルとなった女おたかが、歌麿の死後8年経って、一人で、ひっそりと 死期をむかえようとしている。 結核におかされて病床にいる彼女を、北斎とお栄とが、それぞれに見舞ってやる話。 北斎が見舞った日に、おたかは庭で、行水をして…

『百日紅』(11)火焔

エピソード其の16「火焔」です。 お栄ちゃんは江戸の花である火事の見物が大好きときている。 半鐘がジャンとなったら家をとびだして、火事見物に走り出す。 夜中でも、すぐに飛び出せるように、ワラジを履いて寝ているほど。 「お栄いたって火事を好みて…

『百日紅』(10)離魂病

エピソード其の20が「離魂病」です。 女房とつぎつぎ別れる映画スターの「離婚病」ではないよ。 人体から魂が抜け出すという病気です。 真夏の話である。 吉原の小夜衣という花魁(おいらん)のからだから、明け方になると、幽体が離脱して、ろくろっ首の…

『百日紅』(9)渓斎英泉

前回(8)では主人公の池田善次郎を、現代の女性ファンであれば、「かわい~い」と呼ぶであろう「ぜんちゃん」として紹介したわけだが、浮世絵師渓斎英泉(けいさいえいせん)としての側面も、ついでに書き加えておくとしよう。 英泉は1790~1848年…

『百日紅』(8)善次郎

杉浦日向子さんの『百日紅』の魅力は、なんといっても北斎家の居候絵師善次郎というキャラクターです。 全30話の狂言回しを演じている「ぜんちゃん」こと池田善次郎のキャラクターをつくりだしたのが、『百日紅』成功の秘訣です。 善次郎は若き日の渓斎英…

『百日紅』(7)お栄の家族写真

お栄ちゃんの実母と家族を、エピソード其の4「木瓜(ぼけ)」が紹介しています。 其の15「春浅し」ではお栄の実弟で御家人の加瀬家に養子にはいっている多吉郎が紹介される。 そして、其の28「野分」で妹お猶(なお)が登場するが、野分にさらわれたよ…

『百日紅』(6)

お話其の23「美女」 お栄ちゃんが絵草紙屋のもとめに応じて、「北斎娘栄女筆」と署名した美人画を画いた。絵草紙屋のいうことには、北斎の名をいれるよりお栄の名が入ったものの方が、良い値で売れるからといわれたからだ。 その絵は、ある金持ちの老隠居…

『百日紅』(5)北斎とお栄の家

どんどん寄り道をしてしまいました。 ここで初めにもどって、亀沢町とおもわれる北斎父娘の借家の光景にもどります。 1枚目が「番町の生首」から。文化11年、北斎が55歳、お栄が23歳です。 2枚目のイラストは飯島虚心の『北斎伝』からUPしたもので…

『百日紅』(4)

北斎の三女、お栄ちゃんが「葛飾応為」(おうい)の署名をいれて描いた絵の数は多くないのです。 その画名だって、由来を聞くと、ふざけたような戯名のごとし、です。 北斎がお栄と呼ばず、いつも「アゴ」と呼ぶか、「オーイ」と(まるで、オーイお茶、のT…

『百日紅』(3)

すこし逆戻りします。 『百日紅』(2)でこんなことを書きました。 お話の其の1から其の4までの口絵はお栄の枕絵の模写だと思われるのに、杉浦さんは元の絵の作者名も絵の題名も書いていないと。なぜだろうかと。 その理由が分かった気がしています。 わ…

『百日紅』(2)

『百日紅』其の1「番町の生首」 開巻最初の口絵が、いきなり「枕絵」(春画。男女閨中の秘戯を描いた絵←広辞苑)で、ことば書きが「おまへほど、かァいゝ男ヲもふ五六人ほしい、そうしてよるひるつゞけてさせていたい」とあるから、このマンガ18歳未満(…

『百日紅』(1)

『百日紅』(さるすべり)は1983年11月~88年3月までの4年4ヶ月にわたり雑誌「漫画サンデー」(実業の日本社)に連載された連作長編で、『百物語』と並ぶ長編の代表作といえます。 彼女の創作年齢では25~30歳の期間であり、まさに創作意欲が…

『ゑひもせす』杉浦日向子

★前の記事『二つ枕』杉浦日向子(3)からのつづきです。★ ちくま文庫『ゑひもせす』を開くとするか。 ちくま文庫には何冊も杉浦マンガが収められている。カバーの袖に作者の写真がついている。どの本をみても、おなじ写真である。何歳くらいの写真だろうか…

『二つ枕』杉浦日向子(3)

『ゑひもせす』についてなにか書こうと、文庫本を開いていたら、『虚々實々 通言室乃梅』という 作品があるじゃないか。 きくところによると、この『通言室乃梅』を雑誌「ガロ」に送ったところ、掲載がきまって、以後杉浦さんの江戸ものマンガの発表舞台が「…

『二つ枕』杉浦日向子(2)

『二つ枕』は月刊マンガ誌「ガロ」1981年8月号~11月号の4回に連載された、初期の杉浦日向子の傑作である。 「初音」「麻衣」「萩里」「雪野」の4編連作であるが、タイトルは主人公の遊女の名前である。 ここで杉浦日向子さんの特筆すべき才能を指…

『二つ枕』杉浦日向子

2005年7月杉浦日向子さんは46歳という若さで、惜しまれながら亡くなった。ガンだったと聞く。04年11月に、ガン再手術を受けた後、翌年の1月、たったひとりで南太平洋クルーズの旅にたった。その6ヶ月後には帰らぬ旅へと発たれた。 その生前に筑…