2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

短編{かれらの風貌」(11の8)

人間同様、長寿の犬に認知症の症状がでてきてもふしぎではないのだろうが、ラッキーの眼の中にも、 顔の表情にも痴呆めいたものは影もないから、にわかには信じがたい思いがあった。 処方された鎮痛剤をのませると、むやみに吠えることだけはなくなった。 頸…

短編{かれらの風貌」(11の7)

(3) 前章を書き終えた時点で、『かれらの風貌』は脱稿のつもりでいた。 ところがその後でラッキーが死んだ。とうとうわが家の飼い犬はみんないなくなった。 ラッキーのことも書いておいてやらねば公平を欠くだろうからと、この章を書き足すことにした。 …

短編「かれらの風貌」(11の6)

そんな状態が十日間つづいた。土曜日の夜だった。 息子が二階から下りてくると、居間にいた私と妻にいった。 「チビがおかしいよ」 チビは臨終のときをむかえていた。 タオルにつつまれて横になり、口を大きくあけて弱々しい呼吸をしていた。 吸い口で彼女の…

短編「かれらの風貌」(11の5)

(2) オス犬のオッキーが死んだ翌年にはメス犬のチビが死んだ。 八月末の猛暑の時分だった。 彼女はシェルティーの雑種で、下の息子が貰ってきてから十五年になったから、 オッキー同様に人間の年齢でいえば八十代の老婆だったろう。 名前のチビは、貰われ…

短編「かれらの風貌」(11の4)

届けをした木曜日の午後、動物保護センターから連絡があったらしい。 あらたに収容した犬があったので、その特徴を知らせてくれたのである。 妻は、うちのオッキーではなかったといった。 金曜日の朝の九時前、私は出勤の支度をしていた。電話は朝霞保健所か…

短編「かれらの風貌」(11の3)

私の記憶の隅に、別のオス犬の姿がある。 保健所に雇われた犬捕りにつかまって連れ去られていくナチの姿だった。 長い棒の先端についた金属の輪で、首をひっかけられて捕獲されたのだった。 犬捕りはボロの衣服を着た大男であり、蓬髪の下には垢で汚れた黒い…

短編「かれらの風貌」(11の2)

オッキーはわが家に十五年いた。 上の息子がまだ中学生のとき、雑木林から拾ってきたオス犬で、 生後六ヶ月くらいは野良暮らしをしていたと思われるから、年齢は十六歳にちかく、 人間でいえば八十をいくつも超えたといえるだろう。 ただし後脚と視力が衰え…

短編「かれらの風貌」(11の1)

かれらの風貌 (1) 「オッキーがこのまま帰ってこなかったら、あなたのせいですからね」 妻の声には悲痛なひびきがあった。 水曜日の夜、仕事から戻った私が門扉を開いたとき、私の足もとをすり抜けるようにして外へ出て いった老犬は翌朝になっても戻らな…

「てっぱん」はじまる

NHKの朝の連続ドラマ「てっぱん」が、9月27日の今日からはじまった。 人気があった「ゲゲゲの女房」は一度も見なかったくせに、こちらは今日の第一回だけは 見逃してはならないと、8時からカメラを用意して見ましたよ。 尾道の風景からはじまると、胸…

わくわく亭女房奮戦記

わくわく亭の女房は予選を勝ち抜いて甲子園へ! なんのこっちゃ? いや、話せば長くなりますが、かいつまんで申し上げます。 女房は趣味の家庭ベーキングがエスカレートして、自宅近くの食品スーパー「マルエツ」の中にある ベーカリーでバイトというかパー…

ジョルジュ・デュアメルの言葉

大江健三郎さんが今朝の朝日新聞コラムでフランスの作家ジョルジュ・デュアメル (1884~1966)の言葉を紹介している。 氏の東大時代の恩師であった渡辺一夫さんとのエピソードとともに、師の翻訳したデュアメルの 『文学の宿命』からの文章を引用し…

「空の日」

9月20日は「空の日」だって、知らなかった。 国土交通省のHPにはつぎの説明がある。 「空の日」の起源は、昭和15年に制定された「航空日」が始まりです。 この年の「航空日」は9月28日に行われましたが、昭和16年の航空関係省庁間協議において …

崑劇

このところ、図書館へ足繁く通って、明末清初の中国史について勉強をしています。 「旧院の妓」と仮題をつけている西暦1642年の中国南京の物語をぼちぼちと 書いているから、つぎつぎと勉強することが出てくるのです。 昼は役者で夜は遊郭の幇間(たいこ…

「かれらの風貌」

「姫路文学」が復刊して15年になる。 そのまえに20年を超える長い休眠期間があった。 わくわく亭は大学卒業前に同人となり、87号に「シンデレラ姫」、88号に「少女小説的」 89号に「雀のおやど」、93号に「季節はずれ」、94号に「どんよりした…

からくり時計

昨日の午後4時過ぎ、日本橋人形町のコーヒーショップで遅い昼食をとっていた。 4時半に店を出たとたん、からくり人形が木遣り節にのって現れた。 梯子乗りや纏回しが演じられた。 人形町の通りには2基のからくり時計台がある。 空は曇っていた。 このあと…

毛利和雄さん(NHK解説委員)の書評

NHK解説委員の毛利和雄さんから『十八歳の旅日記』の書評を頂いた。 毛利さんは文化財、世界遺産を専門に解説しておられる。 毛利さんからブログへ転載の了承を頂いているので、ここに紹介します。 すてきな文章です。 尾道物語・姉妹編『十八歳の旅日記…

女性タクシードライバー

金曜日の夜、友人と御徒町の「樽平」で待ち合わせて食事をした。 それから車を拾って銀座へ出て、久しぶりに「ひろこ」で飲む。 十二時を回った時刻に店を出ると、友人と別れて、タクシー乗り場へ。 客の列は20人程度。金曜日だというのに、やはり景気は底…

相次ぐ作品評

文芸雑誌「季刊文科」の49号に、わくわく亭の作品が、しかも一度に3作品について 取り上げて論評されるという幸運なラッシュが起きた。 「酩酊船」に書いた小説「小石の由来」とエッセイ「花本さんとヒカルくん」であり、 「別冊関学文芸」に書いた小説「…

『十八歳の旅日記』発売

新刊『尾道物語・姉妹篇 十八歳の旅日記』は9月13日の週に下記の書店へ配本されます。 AMAZONをはじめとするネット販売は9月20日以降になるそうです。 配本数の多いのは、啓文社チェーンです。 なかでも、尾道の啓文社福屋ブックセンターには、…

ツイッターへの投稿記事から

「今週の日本版NEWSWEEKによれば、ハーバード大学の調査ではツイッターすべての 書き込みの95%は、わずか10%のユーザーの投稿だそうだ。 ほとんどが他人の書き込みを読んでいるだけらしい。 日本でもそうなのかな」 「おなじNEWSWEEK…

新刊書

トップでご案内しましたが、『十八歳の旅日記』が近日中に発売になります。 カバーはご覧の通り、瀬戸内の海の風景です。 帯をはずした写真を掲載します。 こちらはトビラの図です。淡いブルーがノスタルジックです。 ついでに帯のコピーを、表と裏と、ご覧…

民主党代表選

ノンフィクション作家佐野眞一さんの作品を、わくわく亭は愛読していますが、 氏がただいま続行中の民主党代表選について、いかにも佐野さんらしい人物月旦をしている。 小沢一郎さんについては「買いかぶられた政治家」という。 小沢さんが尊敬する田中角栄…