『百日紅』(1)

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百日紅』(さるすべり)は1983年11月~88年3月までの4年4ヶ月にわたり雑誌「漫画サンデー」(実業の日本社)に連載された連作長編で、『百物語』と並ぶ長編の代表作といえます。

 彼女の創作年齢では25~30歳の期間であり、まさに創作意欲が横溢している作品なのです。

 『二つ枕』『ゑひもせす』については、このコーナーですでに取り上げて、杉浦日向子のマンガ作家としてのデビュー時代の作品で、日向子流「洒落本」だったとお話しました。
 江戸への入り口を「洒落本」をつかって入ったのでした。

 ついで『合葬』では彰義隊による上野戦争を、滅び行く江戸への鎮魂歌として、シリアスな作風で描いています。

 その次となるのが、『百日紅』です。こんどは浮世絵を使って江戸の町中へと入りました。

 明るく楽天的な作風に戻って、江戸後期の浮世絵界を、葛飾北斎と娘お栄、そして居候の池田善次郎(のちの渓斎英泉)を中心にして30話まで描いたものです。


 わくわく亭が持っているのは筑摩書房から出された「杉浦日向子全集」(1995年10月)のもので、上下2巻となっています。

 上巻の巻末解説として森毅さんが「北斎の娘」という短い文章を書いて、その冒頭の一行がこうです。

    《お栄は北斎の娘、杉浦日向子がのりうつった相手》

 『百日紅』を読んだ読者なら、だれひとり、異はとなえないはずです。お栄は顔も姿も、性格から
ものの考え方までが、作者の杉浦日向子さんそのものといって、さしつかえないのじゃないか。

 それはもう、いじらしいくらいです。日向子さんは北斎の娘お栄にのりうつったのであります。

 どんなふうに乗りうつったか、それを見るために、つぎのような道具を用いて、『百日紅』の舞台である江戸の文化11年までタイムスリップしましょう。


          ーわくわく亭が所持するタイム・マシン

          1.「葛飾北斎伝」飯島虚心著(岩波文庫

          2.お栄の浮世絵、池田善次郎(渓斎英泉)の浮世絵、

          3.杉浦日向子さんが触発された岡本綺堂の怪談話。

          4.江戸の地図


 まずは、日向子さんと『百日紅』に描かれたお栄の顔くらべ。

 日向子さんは自画像のつもりで描いたにちがいありませんね。

 あごから耳までの線、目と太い眉はうり二つ。個性的な美人です。
  

              『百日紅』(2)へつづく