わくわく亭文庫

『別荘橋のできごと』(7)

『別荘橋のできごと』(6)

『別荘橋のできごと』(5)

『別荘橋のできごと』(4)

『別荘橋のできごと』(3)

『別荘橋のできごと』(2)

『別荘橋のできごと』(2)

『別荘橋のできごと』(1)

短編{かれらの風貌」(11の11)

ラッキーが幾日も大便をしないことがあった。 動物病院に訊いてみると、のませている鎮痛剤のせいで、 そのうちに出るようになるから心配はいらない、と教わった。 ある日ゴムマットを洗い、ついでに玄関内の掃除をしていると、下駄箱の下のすきまに、 丸い…

短編「かれらの風貌」(11の10)

三頭の犬たちの終末をくらべてみると、三者三様だったことがよく分かる。 なかでもラッキーについて書いていると、母のさいごの日々が思い出されるのは、 ラッキーの状態が母の様子に一番似ていたからだろう。 さいごの六ヶ月間、母は歩行困難となりベッドの…

短編「かれらの風貌」(11の9)

朝は食事をさせた後に鎮痛剤を与え、夜は睡眠導入剤を与えた。 鎮痛剤も眠くなる成分が含まれているのだろう、食後はしばらく眠っているから、 ぐるぐる回って、もがきまわる姿を見ないですむ。 その間に、タオルの交換や包帯の巻き替えをすませる。 夜の薬…

短編{かれらの風貌」(11の8)

人間同様、長寿の犬に認知症の症状がでてきてもふしぎではないのだろうが、ラッキーの眼の中にも、 顔の表情にも痴呆めいたものは影もないから、にわかには信じがたい思いがあった。 処方された鎮痛剤をのませると、むやみに吠えることだけはなくなった。 頸…

短編{かれらの風貌」(11の7)

(3) 前章を書き終えた時点で、『かれらの風貌』は脱稿のつもりでいた。 ところがその後でラッキーが死んだ。とうとうわが家の飼い犬はみんないなくなった。 ラッキーのことも書いておいてやらねば公平を欠くだろうからと、この章を書き足すことにした。 …

短編「かれらの風貌」(11の6)

そんな状態が十日間つづいた。土曜日の夜だった。 息子が二階から下りてくると、居間にいた私と妻にいった。 「チビがおかしいよ」 チビは臨終のときをむかえていた。 タオルにつつまれて横になり、口を大きくあけて弱々しい呼吸をしていた。 吸い口で彼女の…

短編「かれらの風貌」(11の5)

(2) オス犬のオッキーが死んだ翌年にはメス犬のチビが死んだ。 八月末の猛暑の時分だった。 彼女はシェルティーの雑種で、下の息子が貰ってきてから十五年になったから、 オッキー同様に人間の年齢でいえば八十代の老婆だったろう。 名前のチビは、貰われ…

短編「かれらの風貌」(11の4)

届けをした木曜日の午後、動物保護センターから連絡があったらしい。 あらたに収容した犬があったので、その特徴を知らせてくれたのである。 妻は、うちのオッキーではなかったといった。 金曜日の朝の九時前、私は出勤の支度をしていた。電話は朝霞保健所か…

短編「かれらの風貌」(11の3)

私の記憶の隅に、別のオス犬の姿がある。 保健所に雇われた犬捕りにつかまって連れ去られていくナチの姿だった。 長い棒の先端についた金属の輪で、首をひっかけられて捕獲されたのだった。 犬捕りはボロの衣服を着た大男であり、蓬髪の下には垢で汚れた黒い…

短編「かれらの風貌」(11の2)

オッキーはわが家に十五年いた。 上の息子がまだ中学生のとき、雑木林から拾ってきたオス犬で、 生後六ヶ月くらいは野良暮らしをしていたと思われるから、年齢は十六歳にちかく、 人間でいえば八十をいくつも超えたといえるだろう。 ただし後脚と視力が衰え…

短編「かれらの風貌」(11の1)

かれらの風貌 (1) 「オッキーがこのまま帰ってこなかったら、あなたのせいですからね」 妻の声には悲痛なひびきがあった。 水曜日の夜、仕事から戻った私が門扉を開いたとき、私の足もとをすり抜けるようにして外へ出て いった老犬は翌朝になっても戻らな…

短編「冬のこうもり」(5)

短編「冬のこうもり」(5)

短編「冬のこうもり」(4)

短編「冬のこうもり」(4)

短編「冬のこうもり」(3)

(つづく)

短編「冬のこうもり」(2)

(つづく)

短編「冬のこうもり」(1)

冬のこうもり (つづく)

秦淮(しんわい)とチキンラーメン

昨年の秋から、すこし長い小説を書くために、史料を集めたり、文献を読んだりしています。 舞台が中国の明時代の終わりから清時代の初めで、「明末清初」といわれる時代の、 南京の秦淮河ほとりにあった遊郭「旧院」です。 写真は近年の秦淮風景です。 あの…

ひとは何処から来て、何処へゆくか

ひとは何処から来て、何処へゆくか 平成二十一年十一月に、俳優の森繁久弥さんは九十六歳で亡くなった。 名優であるし、歌手として、あるいは日曜名作座での朗読は声優としても名声の頂点をきわめた、 まことに多彩な芸人、芸術家だった。 森繁さんのエッセ…

コオロギ鳴く

天気予報を見ていたら、予報士のお姉さんが面白い話を聞かせてくれた。 夜になるとコオロギがすだく季節になった。 コオロギが15秒間に何度鳴くかを数えることで、気温が分かるという法則があるのだそうだ。 アメリカのジャニス・P・ヴァンクリーブが発見…

「日本文学」と「日本語文学」

「日本文学」とは日本人作家が日本語で書いた文芸作品のことである。 「日本文学」に対して「外国文学」とは、外国人作家による外国語文芸とその日本語翻訳をいう。 内外の文学を分類するとして、従来この2つのカテゴリーに分類できた。 ところが、近年第3…

4月14日の「女のレポート」

毎朝のように聞いているのがTBSラジオの「大沢悠里のゆうゆうワイド」である。 11時過ぎに流れるのがパーソナリティー大沢悠里が朗読する「女のレポート」である。 リスナーの投稿した短い話が朗読されるのだが、なかなかいい物語があって、感動を 覚え…

「わたし落ちそうなの」

わくわく亭の恋愛話ではありません。 今朝、眼が覚める直前に見ていた夢の話です。 夢には50前後の歳に見えるわくわく亭の母が現れた。 (母は91歳で3年前に他界しているのです) 50前後に見えても、夢を見ている僕は「おや、お袋は80にもなって」…

九九の起源

わくわく亭はもとより文科系ですから、数学の本は苦手でよみません。しかし数学者の、しかも天才数学者について書かれたものは、結構好きで読みます。 この『天才の栄光と挫折』の作者藤原正彦さんは、あのベストセラー『国家の格』の作者であり、本業は 数…