2010-09-30から1日間の記事一覧

短編{かれらの風貌」(11の8)

人間同様、長寿の犬に認知症の症状がでてきてもふしぎではないのだろうが、ラッキーの眼の中にも、 顔の表情にも痴呆めいたものは影もないから、にわかには信じがたい思いがあった。 処方された鎮痛剤をのませると、むやみに吠えることだけはなくなった。 頸…

短編{かれらの風貌」(11の7)

(3) 前章を書き終えた時点で、『かれらの風貌』は脱稿のつもりでいた。 ところがその後でラッキーが死んだ。とうとうわが家の飼い犬はみんないなくなった。 ラッキーのことも書いておいてやらねば公平を欠くだろうからと、この章を書き足すことにした。 …

短編「かれらの風貌」(11の6)

そんな状態が十日間つづいた。土曜日の夜だった。 息子が二階から下りてくると、居間にいた私と妻にいった。 「チビがおかしいよ」 チビは臨終のときをむかえていた。 タオルにつつまれて横になり、口を大きくあけて弱々しい呼吸をしていた。 吸い口で彼女の…

短編「かれらの風貌」(11の5)

(2) オス犬のオッキーが死んだ翌年にはメス犬のチビが死んだ。 八月末の猛暑の時分だった。 彼女はシェルティーの雑種で、下の息子が貰ってきてから十五年になったから、 オッキー同様に人間の年齢でいえば八十代の老婆だったろう。 名前のチビは、貰われ…