秦淮(しんわい)とチキンラーメン

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昨年の秋から、すこし長い小説を書くために、史料を集めたり、文献を読んだりしています。

舞台が中国の明時代の終わりから清時代の初めで、「明末清初」といわれる時代の、

南京の秦淮河ほとりにあった遊郭「旧院」です。

写真は近年の秦淮風景です。

あの芥川龍之介の小説『南京の基督(キリスト)』がここを舞台にしています。




わくわく亭の小説では、主人公は江戸の文人大田南畝狂歌蜀山人)です。

今年から、ようやく小説を書き始めているのですが、大田南畝の夢枕に立った女の道士が

夢のお告げをします。その中で、こんな七言の詩句を読みます。


『一夜紅箋許定情』(一夜の紅箋定情を許す)

これは銭謙益(せんけんえき)という文人の詩の一句です。


「紅箋」というのは、紅色の紙切れで、秦淮の遊郭で遊女が自分の名前を書いて、はじめての客に

手渡す名刺のようなものです。


一度目(初会)で、いきなり遊女と寝ることはできません。

二回目に行くことを(かえし)といいますが、二度目でも寝ることはできません。

三度目(三会)ではじめて床入りが許されます。

これは吉原でも同じルールでした。

「定情」というのは夫婦約束のことで、男女の契りを約束することです。

遊女が客に名前入りの紅箋をわたして、「近いうちに、かえしくださいね。そうしたなら

そのつぎに、あなたと男女の契りを結ぶことを約束します」と、いわれて

客はめろめろになるのです。



そんなシーンを書いたことを、わくわく亭は女房に話しました。

女房は忙しくて、亭主の南京だの遊郭だの「一夜紅箋」だのに耳を貸してくれません。

たしかに、朝の食事前の時間帯、女房は食事の支度、洗濯物、物干し、風呂場の掃除など

大忙しです。

わくわく亭の悠長な話を聞いていると、「お腹がいたくなる」とトイレに逃げていきます。

このところ彼女のお腹の調子は好調だと言うことです。


それならば、とわくわく亭は紙切れに、つぎの七言を書いて女房が見るだろうテーブルの

上に置きました。

『今朝快便許計量』(今朝の快便は計量を許す)

計量できるほどの分量が出たことでしょう、という皮肉であります。


それから、朝刊を開いてみたら、面白い記事が目に入りました。

日清食品が、あのチキンラーメンを一袋35円で3月1日から販売するというニュースです。

創業者の生誕100年を記念した特売で1000万食限定で売るというのです。

「これは売れるだろう。わくわく亭だって買うよ」と騒いでいると、

女房が、

「今朝の血圧はどうだったんです。ラーメンは塩分が多くて血圧に悪いんですよ」ときたね。

「昨夜は夜更かししたから、寝る前の血圧は高かった。今朝は三回測って、そんなに高くなかった。

今朝ぐらいなら、チキンラーメンはOKだろう」

おお、そうだ。もう一句できたぞ。


『今朝血圧許拉麺』(今朝の血圧ラーメンを許す)


「快便より、ラーメンの方がいいわね」と女房がのたまいます。