4月14日の「女のレポート」
毎朝のように聞いているのがTBSラジオの「大沢悠里のゆうゆうワイド」である。
リスナーの投稿した短い話が朗読されるのだが、なかなかいい物語があって、感動を
覚えることも度々ある。
大沢さんのつぎのナレーションからはじまる。
「心に残る出会いと悲しい別れ、新しい出会いを綴る女のレポート…」
今朝聞いた話も心を打つ「レポート」だった。
投稿者は56歳(?)くらいの女性で、母親の近況を綴ったもの。
彼女の名前はTKさんと紹介されていた。
☆
TKさんの母親は、どこかの料亭(?)で働いていたらしい。毎日店先を通って、どこかに通勤
している若い男性に恋心を抱いていた。
ある春の日、水撒きをしていた水が、通りがかりの男性のズボンにかかってしまった。
失礼を詫びながら、タオルで濡れたズボンを拭こうとすると、男性から、こんどの日曜日に
近くの桜を観に行かないかと誘われる。
(このあたりは、投稿者の創作っぽい部分だが、それもいいではないか)
彼女は、お店のおかみさんに相談すると、おかみさんは、
「いい話じゃないか。行ってお出で。そして、帰りには、かならずウチにつれてきて、わたしに
紹介おしよ」と話のわかる人だった。
その花見から1年と2ヶ月後に二人は結婚した。
娘が生まれた。その娘がTKさんである。
しかしシアワセは、なにが原因なのか、こわれてしまった。
二人は離婚した。
離婚したのち、娘は母親と暮らしながら、時々は父親とも会っていた。
父はその後、別の女性と再婚している。
母は軽い認知症にかかって、施設で生活している。
TKさんは母を誘ってお花見に行った。
最近、しきりに母は、別れた父の話をする。
離婚したことを忘れているようすなのだった。
そして、
TKさんは母と父のなれそめになった水撒きの事件と、そのとき父が母を花見に誘った
というロマンスも聞いたのである。
うれしげに父のことを語り、最初の花見でもらった品について話すので、
「お母さんは、いまもお父さんのこと好きなのね」とTKさんが訊ねると、
恥ずかしそうに老いた母はこっくりしたという。
TKさんは、話そうかどうしようかと迷った。
つい最近父は病死したが、そのことを母は、まだ知らない。
母の茶碗に花びらが一枚舞い落ちた。
「わたし、いまが一番しあわせなの」
そう母が言った。
☆
できすぎた話のようでもあるが、いいではないか。
桜の季節に、桜にまつわる、いいお話。
TKさんは東久留米の在住者だと、女性アシスタントが紹介する。
おや、そこには、わくわく亭が親しくしている女流作家がおいでで、名前のイニシャルがぴったりTK
になる。ただし、年齢の56歳は若すぎる。あるいは10歳ばかりサバを読んだか?
まさか、別人だろう。
ラジオ番組が森山良子さんの音楽番組にかわるころ、わくわく亭は家を出る。
バス通りにある桜並木は、すでにほとんど緑の並木である。
それでも、ところどころに残る花が、バスの窓の外に舞っている。