2010-09-29から1日間の記事一覧

短編「かれらの風貌」(11の4)

届けをした木曜日の午後、動物保護センターから連絡があったらしい。 あらたに収容した犬があったので、その特徴を知らせてくれたのである。 妻は、うちのオッキーではなかったといった。 金曜日の朝の九時前、私は出勤の支度をしていた。電話は朝霞保健所か…

短編「かれらの風貌」(11の3)

私の記憶の隅に、別のオス犬の姿がある。 保健所に雇われた犬捕りにつかまって連れ去られていくナチの姿だった。 長い棒の先端についた金属の輪で、首をひっかけられて捕獲されたのだった。 犬捕りはボロの衣服を着た大男であり、蓬髪の下には垢で汚れた黒い…

短編「かれらの風貌」(11の2)

オッキーはわが家に十五年いた。 上の息子がまだ中学生のとき、雑木林から拾ってきたオス犬で、 生後六ヶ月くらいは野良暮らしをしていたと思われるから、年齢は十六歳にちかく、 人間でいえば八十をいくつも超えたといえるだろう。 ただし後脚と視力が衰え…