光原百合「扉守」

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「扉守(とびらもり) 潮ノ道の旅人」文春文庫(本体590円)

第一回広島本大賞受賞作である。

作者はロマンティックなミステリーを書く光原百合さん。

尾道市立大学芸術文化部准教授でもある。

文庫の解説を尾道啓文社の児玉憲宗さんが書いていることもうれしい一冊です。

古い井戸から溢れ出す水は《雁木亭》前の小路を水路に変え、月光に照らされる小舟が漕ぎ来る。

この町に戻れなかった魂は懐かしき町と人を巡り夜明けに浄土へ旅立つ(「帰去来の井戸」)。

瀬戸の海と山に囲まれた町でおこる小さな奇跡。柔らかな方言や日本の情景に心温まる幻想的な

七篇。


と文庫カバーの内容紹介。

七つの短編は了斎という僧侶が狂言まわしとなった連作である。

「潮ノ道」とは「尾道」の語呂合わせ。お寺が、小路が、山々が、尾道に実在するものとは

違う名前をもっているが、それはあそこのことではないか、それはきっとあそこのことだ、

などと尾道を知るものは,頭のなかの地図に照らしながら物語を読むことになる。

なんと懐かしく尾道の風光を描いた小説だろう。

古めかしくみえる話を、現代の若い読者にも郷愁を覚えさせるファンタジックな展開にして、

なおかつ哀愁の水脈を引く。

作者は大学で、現代尾道の民話を学生たちに創作させているが、まさしく、その民話創作の

手法がここに結実している。

「扉守」を手にした少年少女が全国から、続々とあこがれの尾道へやってくることだろう。