本居宣長の色好み

丸谷才一さんの『文学のレッスン』(新潮社)は面白い、文学のお勉強の本です。


折口信夫小林秀雄による本居宣長論争を説明する中で、

儒教と仏教が到来するまえの日本には“色好み”という信仰もしくはモラルがあって、

その体現者が光源氏だという認識が、宣長にはあった、と理解するのが折口信夫で、

宣長を『古事記伝』の人だと思っていた小林秀雄の理解は正しくない、と折口は指摘する…云々。


とまあ、むつかしい話のあとで、

丸谷才一さんが宣長の“色好み”のエピソードを紹介している。



本居宣長が亡くなって、弟子達が集まり、酒を飲みながら、あんな偉大な学者は

もう出ないだろう、と口々に褒め称えていた。

すると、酒をはこぶ本居家の女中の一人が、わぁ~、と泣き出した。

弟子達がわけを問いただした。

女中「そんな偉い先生だとは、わたし知りませんでした。毎晩のようにわたしの部屋に来て

  いっしょに寝ようというのを、わたしは邪険に断ってばかりいました」



折口信夫本居宣長の本領は『源氏物語』にあるといい、それが小林秀雄には分かっていないと

考えていた、ということ。