映画「キャタピラー」と「芋虫」

ベルリン映画祭で寺島しのぶさんが最優秀女優賞を受賞した。

彼女が主演した若松孝二監督作品「キャタピラー」の演技が認められたものである。

寺島さんは歌舞伎名門の家の生まれで、父親が女形も演じる美男役者の尾上菊五郎さん、

母親は女優の富司純子東映時代は藤純子)さん。

梨園の名門出であれば、映画できれいなお嬢様演技をするか、明治座あたりで新派風の

芝居をしていてもよかったのだろうが、彼女は早くから裸も大胆なラブシーンもいとわない

体当たりの役柄を演じていた。

それが、ついにベルリン映画祭最優秀女優賞を獲得である。

性的描写の体当たり演技といえば、1964年に同じベルリン映画祭で「にっぽん昆虫記」などで

女優賞受賞の左幸子さんを思い出す。

ところで、「キャタピラー」とはどんな映画なのだろう。

報道によると、

《「キャタピラー」は、江戸川乱歩「芋虫」や映画「ジョニーは戦場へ行った」

 に触発された作品。寺島さんは第二次大戦の中国戦線で両腕両脚を失った夫に献身する

 「愛国の妻」の葛藤を演じ、性愛場面を含めて存在感を見せた》そうである。

「芋虫」とくれば、このコミック評の書庫で紹介した丸尾末広のマンガを連想せずにはおれない。

報道は江戸川乱歩の短編小説に「触発」されたと書いてはいるが、丸尾末広のマンガには

触れていない。

しかし、現代の映画監督が、手塚治虫文化賞受賞作家である丸尾末広の「芋虫」に

「触発」されなかったとは考えられないのである。

時代背景は「芋虫」が日露戦争後であるのに対して、「キャタピラー」が第二次大戦にしてあるのは

自然のことであるが、その両手両脚を戦争で失って傷痍軍人として帰ってきた夫と

妻の性愛描写には、丸尾作品からの「触発」があったに違いあるまい、とわくわく亭は

勝手に決めつけているのです。

丸尾末広が描いた「愛国の妻」の顔までが、体当たり演技をした寺島しのぶさんに見えてくるから

不思議なものだ。

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