「絶対安全剃刀」と「ラッキー嬢ちゃん」

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高野文子さんの本を2冊手に入れた。

『絶対安全剃刀』と『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』とである。

高野さんの『黄色い本』について書いたのは07年の10月で、
http://blogs.yahoo.co.jp/morioka_hisamoto/23690740.html)

その時点でわくわく亭は、その本のほかには『棒がいっぽん』『るきさん』を持っていた。

あれから、およそ1年半ぶりに高野さんの本に出遭えたのである。

『黄色い本』は2003年の手塚治虫文化賞の「マンガ大賞」を受賞した本だった。

それを論評したところ、『絶対安全剃刀』もすぐれた作品集だというコメントを

もらっていたので、以来気をつけて探していた本だった。

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『絶対安全剃刀』は作者のデビュー作品など初期17作品をあつめた作品集なのである。

「花」という作品は1977年作で、作者は20歳だった。

77年から81年までの作品であるから、20~24歳までのもの。

若い感性がみずみずしい作品ばかりで、若い女性ファンを多数獲得した筈である。

死のにおいを描きたがるのは、若い作家にありがちの傾向だが、「絶対安全剃刀」「ふとん」

「花」などがそれである。

わくわく亭が好きな作品は「田辺のつる」「あぜみちロードにセクシーねえちゃん」「玄関」

の3本。

「あぜみち…」はサザンオールスターズの「タバコロードにセクシーばあちゃん」から取った

タイトル。高野さんの郷里新潟県の方言を話す家庭環境で生活している、高校3年の少女が

ひそかに憧れの東京へ出ていく準備をしている。上京するこどもたちを悪くいっている親たち

の陰で、少女はラジオ局に電話でリクエストしている。そして、サザンのコンサートがある

来年には「そっちにいます」と話している。母親はまさか娘がそんなことを話しているとも

知らず、縁側に座る近所の客にお茶をだしている。

少女の電話リクエスト曲がサザンの「タバコロード…」というオチなのである。

上京をめざす田舎の少女が、あいらしく描かれている。

「玄関」は母親と二人でくらしている小学生の少女の夏休みの状景。海で溺れかけた記憶が

あって、学校の水泳教室では水に入れない。それだけのことを描きながら、少女とうつくしい

母親との淋しい心象風景が心にしみる作品である。

「田辺のつる」は1ページをUPしたが、5~6歳に見える少女の名前が田辺つるなのである。

その「つる」ちゃんと家族の家庭風景を描いたもの。

すぐに読者は、この少女が82歳のおばあちゃんだと知らされる。

82歳の認知症にかかっている「つる」さんは、まるで5~6歳の幼子のような人格になっている

のである。

マンガだからできる技法である。

人は幼女がいると思う。それは呆けたおばあちゃんの内面が、説明無しで幼女として表現されている。

文章であれば、いかにして幼女風であるかこと細かく描写する必要なあるが、マンガは

幼女を描き、82歳と説明するだけで足りる。

ここは文章と比べ、マンガの勝利である。

その勝利をみちびいた作者高野文子の、あっぱれな才能である。



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1986~87年にかけて雑誌連載された長編。

絵が「絶対安全剃刀」のそれと違う。読んでいて、これは1960年代のアメリカ文化を

絵にしたおしゃれなマンガなのかな、と思ったのだが、はたして1950年代のヒッチコック

の映画作品(「泥棒成金」など)に着想を得たものだというではないか。

どおりで主人公の男たちがロックハドソンとかケーリーグラントのようなのである。