「十八歳の旅日記」
すこし長いものを書きました。原稿用紙にして150枚程度。
長編ではないけど、中編くらい。
主人公の男は60歳。
ある会合で知り合った女性美都子は70過ぎ。
美都子が入手した頼山陽の日記が物語の縦糸を形成する。
日記は頼山陽が18歳ではじめて広島から江戸へ旅したときの絵日記である。
その日記のなかに隠されている山陽の18歳の心の闇を、美都子は探り出そうと
研究している。
そして、主人公たちも手を貸しながら、徐々に日記の「秘密」が露わになってくる。
あとは、決定的な文献的証拠があれば…。
古書市で、それらしい文書が売りに出されていた。
はたして、頼山陽の心の秘密は、確証が得られたのか。
主人公と美都子は知り合って2年ほどになる。
主人公は、美都子が掛けてくる深夜電話の会話の中で、「あなたが好きなんですよ」と言う。
美都子を慰めるためでもある。
美都子は「でもやはり、こんないい気持ちにさせてくれる言葉は、滅多に使っちゃいけんよ。
あとは奥様に言うてあげんとね。でも、老人性鬱傾向のわたしのために、ありがとう」と
広島ナマリで応えた。
深夜の電話を心待ちにする男に、なぜ電話が来なくなったのか。
小説のラストは次の通りです。
《毎夜、小瀬戸は深夜の零時を過ぎる時刻になると、電話が受信メロディを奏でるのを
心待ちにしている。
それは鳴ってはいないのだが、ときどき、受信曲の幻聴を聞くことがある。
そして倉本美都子の濁りのない声がする。
「こんばんは。眠れんので、またお喋りにきました。なんとのう、寂しゅうなったもんじゃけね。
美都子の深夜コールです」》