「女の100年」から (1)
まずは、3人の事件の女たち。
彼女たちこそ「烈しく生きた女たち」にちがいありません。
阿部定(あべさだ)さんです。
殺人事件の犯人。
昭和11年5月東京・尾久の待合で、元芸者の阿部定が1週間の長逗留の後、愛人である
石田吉蔵さんを絞殺、さらに局部を出刃包丁でえぐりとり、行方をくらませた。
定は31歳だった。
死体の左腕には「定」、大腿部に「定吉二人」と刃物で血書されていた。
お定は品川の旅館に潜伏していたところを逮捕。
写真は逮捕時のもので、吉蔵から切り取った局部は
肌身につけていた。
そして「女として好きな男のものを好きなのは当たり前です」といった。
裁判で懲役6年の判決。
定の猟奇的ではあるが、吉蔵に対する深甚な愛をかんがみて、殺人罪としては短期の懲役。
しかも昭和16年「皇紀紀元2600年」の恩赦をうけて出所した。
石井花子さん。
名前を聞いても、どこの石井さん?という感じでしょう。
あのゾルゲの日本人妻、あるいは愛人だったのが、この石井花子さん。
愛人関係となる。
二人が出会ったのは銀座の社交場「ライン・ゴールド」だった。
昭和16年、ゾルゲはスパイ容疑で逮捕。
昭和17年、死刑判決。
そして昭和19年巣鴨拘置所内で死刑執行さる。
その4年後、戦後となった昭和23年、彼女はゾルゲの遺体を、東京郊外の多磨墓地に埋葬した。
ゾルゲは、彼女を事件に巻き込むなら一切の供述を拒否するとして、さいごまで
身をもって、彼女の身を守った。
石井花子さんには「人間ゾルゲ・日本人妻による回想」という著書がある。(角川文庫)
映画「天国の駅」で吉永小百合さんが演じた、戦後女性死刑執行囚の第一号となった
小林カウである。
映画の主人公と実際の殺人犯とは、かなり状況にへだたりがある。
事件通りであれば、吉永小百合さんは出演を断ったであろう。
1909年に小林カウは栃木県に生まれた。
貧しい家に育ったカウは、自転車店の夫に嫁いだものの、夫が病弱のため行商をして生計を
支えていた。近くの交番の巡査に身体を与え、夫殺害を手伝わせる。
貧しさから逃れるためだった。
塩原温泉にみやげもの店を出し、「日本閣」という旅館主と親密になる。
旅館主と謀って、その妻を殺す。
つぎに日雇い男を肉体で籠絡して、彼に旅館主を殺させた。
カウの殺人にはかならず共犯者がいたことになり、
共犯者たちは「カウの官能美に魅入られた」といったそうである。
この写真からは、それほどの「官能美」があったかどうか、わくわく亭には分かりにくい。
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