「真夏座」 第114回公演

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昨夜は、現代劇センター「真夏座」の公演初日で「百三十二番地の貸家」「賢婦人の一例」の2本を観てきた。

会場「内幸町ホール」で、7時の開演だった。

いつものDJタキザワ氏と会場で待ち合わせて一緒に観劇。ノンフィクション作家のタカミヤ氏は

都合がつかず、今回はパスした。

なにしろ、新橋駅から歩いて3分の足場のいいこと。第一ホテル・アネックスの真裏で、地下鉄三田線の内幸町駅が近いし、お隣は帝国ホテルだから、日比谷、有楽町から交通機関のアクセスもいい。

190席ほどのホールは初日ということもあろうが、すべて満席という盛況だった。

前回07年秋の公演も岸田國士(きしだくにお)作品だったが、岸田づいているらしく、今回もまた
岸田作を2本上演した。

岸田國士は日本近代劇の代表的劇作家の一人で、先年亡くなった岸田今日子さんのお父さん。

作品は昭和2年に書かれたということだから、人物の言葉遣い、着物や髪形などの風俗も楽しめた。

昭和2年というと、
2月に、大正天皇の大喪があった。
3月、大蔵大臣の失言から昭和金融恐慌がはじまって、大不況がくる。
5月、アメリカで、リンドバークが大西洋無着陸飛行に成功する。
7月、芥川龍之介の自殺。
10月には、中国共産党毛沢東が井崗山でソビエト政権を樹立した。

物語はそうした大不況時代の庶民の生活風景を描いたもので、2本のうちでは「百三十二番地の貸家」が
面白かった。

わくわく亭の友人、羽藤雄次くんは「百三十二番地の貸家」に出演。佐野陽子さんは「賢婦人の一例」に出演していた。

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             (写真は中休みの時間に撮った会場風景)

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「百三十二番地の貸家」は劇団を主宰している池田一臣さんの演出によるもので、主演も池田さんが
つとめている。

妻を亡くし、子供もいない老人が主人公である。もとは鉄道につとめていた彼は、いまはわずかな年金をもらいながらの独り暮らし。
こつこつ蓄えた金で貸家を建てて、その裏の小屋に自分は住んでいる。

新聞に出した「貸家あり」の広告を見て、三組の客がくる。
家賃を安くするし、留守番をひきうけてもいいしと、家主はサービスのいい条件を連発する。
しかし、家を見に来た客たちは、みんな二の足を踏むか、あわてて逃げ出したりして、家の借り手が
決まらない。もう長期間そうして空き家同然になっているのだ。

最初に家を見に来る夫婦者の夫を羽藤雄次さんが演じている。

彼の持ち味でもある、どことなくユーモラスな憎めない男というイメージが悪くない。
悲喜劇にはもってこいの役者になったと思う。

劇を観ているうちに分かることだが、家主は若い夫婦に入居して貰いたがっている。子供のいない
若夫婦、あるいは若い女所帯を優先して、好条件をだす。
ついには、家賃は只でいいから、今夜から入居して欲しいとまで譲歩する。
それでも、みんな逃げてしまう。

老家主は孤独の暮らしがつらいので、家族同様に入居者と関係をもちたがる。それが、「いやらしい」
「他人を覗く悪趣味の」「あぶない」性向をもつ老人にみられてしまうのである。

サービスをしますと、家主が言えば言うほど、客はこわがって引いてしまうという滑稽。
笑っているうちに、都会に生きる孤独な老人の悲哀がしみじみと観客につたわるのである。

幕切れにエノケンが唄う「赤とんぼ」が流れて、余韻がのこる。

舞台は昭和2年ではあるが、都会に取り残された老齢者の孤独は、現在の問題でもある。


             

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(羽藤雄次くんと佐野陽子さん)

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(羽藤くんと劇中彼の妻を演じた河野智香さん)