「三原まで」評

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雑誌「姫路文学」121号に、わくわく亭は「三原まで」という28,9枚の短編を書いている。

話は作者が40年もむかしの学生のころ、帰省するために乗った普通列車のなかで

いくつか年上らしい若者と知り合い、大阪から尾道までの5時間ほど、彼と彼の双子の姉との

まるで中学生の恋人どうしのような話を聞かされるというストーリー。

彼らは、お互いがこの世で一番好きな相手だと告白して暮らしていたが、彼が高校に進学した

年に姉が自殺した。トラック運転手に暴行された彼女は、遺書を弟に残して庭で首を吊ったのである。

それから、彼は高校を中退して、運送会社を転々としながら犯人捜しをしていた。

いまもそれらしい男をさがして大阪まで行っての帰り道なのだったという。

作者は泥酔した若者を三原駅まで送って行き、バスで尾道まで戻るのだったが、

思春期の双子の姉弟の、近親相姦のようなキケンな話に心を乱されてしまっていた。

あれから、40年たって、

 いま思い出しても、あの青年と双子の姉との湧き湯の光景に、

私は落ち着かぬ気分になってくる。

 どこかひりひりとあぶられているような、いらだちを覚えるのだ。その気分の正体は、

正直にいえば嫉妬の感情に似ているのかもしれない。

 なんということだろう、嫉妬だなどと。あれから四十年の歳月がながれたというのに。

雑誌を10人ほどの友人に送ったところ、おおむね女性からの反応がよかった。

山口市に在住の作家で「VIKING」同人のAさん(男性)からは、
大兄の作品には、ほのかにエロチシズムが漂ってきます。こういう作品を読みますと、

年がいもなく青春十八切符でブラリと出かけたくなります…
というハガキをもらった。

「別冊関学文芸」のWさん(男性)からは、
いままでのどの系統にも属さないものでしたが、双子の姉弟の思春期が妙に生々しく

描かれていて感心しました…
と、Aさんに近い感想だった。

あとは、すべて女性からの評です。

Fさん(女性)は関西在住のエッセイストであり詩人。
春の泡立つような焦燥感が「三原まで」を読んで、いっそう私の気持ちを落ち着かなくさせました。

何故かうまくあなたの文章術の術中にはまったような気がします。嘘を真のように真を嘘のように

易々として書かれる腕前に、いつものように感嘆と賞讃を惜しみなく送りたい。

Sさん(女性)は「別冊関学文芸」同人。
さて あなたの「三原まで」いつもの事ながら とても 面白く拝見しました。

たまたま 7日にT・K・Yさんと会うことがあり、あなたが 

どうして作家活動一本でやっていかないのかなァ、と噂の男でしたよ。
 
本当に面白いです。

特に「三原まで」 今までの中で 一番好きで 感心しました。

どこに出しても 万々歳だと思います。

Iさん(女性)は「酩酊船」同人。
「三原まで」面白く拝読いたしました。双子の精神の結びつきがミステリー、サスペンスタッチ

で描かれていて、本当によい御作ですね。

Tさん(女性)は「路傍の石文学賞」をはじめ数々の児童文学賞を受賞している児童文学、絵本

作家。
「三原まで」お贈りくださり、ありがとうございました。まさに短編の醍醐味ですね。

坪田青年の語りが広島弁のまったりとした語尾と相まって、何やら熱いようなふしぎな

ムードを醸しだしているようです。4年もたつと、探すこと自体が人生になっている

様子も身につまされて…いい終わりですね。

Yさんは尾道在住の詩人です。
「三原まで」は尾道に向かう列車の中で出会った“清志”という青年の話を“昔話”の形

で書かれた短編。思春期に入った双子の姉弟の近親愛、特殊な情況で生々しい描写なのに

透明で清潔感があるのは、他で読み聞いたりした、しらっとした、そのくせもの欲しげな

感じがする小説や映像と比べるからかもしれません。

品格があるのですね。

四十年の歳月がすぎても鮮明な体感があるのは、人間の(作者)の中にある原点が、今なお

いきいきと残っているからだと思います。年月を経ても変形しない光を放つ原点。

短編の妙味を味わうことができました。

みなさん、とくに女性のみなさん、ありがとうございました。

わくわく亭の小説の味方は、やっぱり女性です。(笑)