「バガボンド」熊本へ罷る

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八重洲ブックセンターの7階は美術、芸術、グラフィック、洋書の売り場である。

井上雄彦の名前がついた雑誌を見かけたから、すぐに買った。

「ぴあ」といったらチケット販売の会社じゃないか。そこが「井上雄彦ぴあ」という雑誌を出すとはね。

井上雄彦が東京上野の森美術館で2008年5月に『最後のマンガ展』を開催したが、そのチケット

販売は「ぴあ」が受け持っていた。

それは井上が雑誌連載中の『バガボンド』のイラストを中心にした美術展だった。

「最後」のはずが、あまりの好評と人気から「最後のマンガ展・重版」と銘打って熊本で開催する

ことになった。もちろん「ぴあ」が主体となっている。

4月11日~6月14日までのおよそ1ヶ月。

なぜ上野の森から熊本へ飛んだかというと、『バガボンド』の主人公が吉川英治の原作を下敷きにした

宮本武蔵であり、その武蔵は晩年熊本細川藩と深いゆかりがあったことから、熊本市現代美術館が

開催企画に乗ったということらしい。

バガボンド』は29巻が刊行されており、まもなく30巻が発行となるらしいが、すでに

10年も描き続けられている。

若いファンは、宮本武蔵佐々木小次郎吉川英治で知らなくとも、『バガボンド』で知っている

という現象が起きている。

「ムサシ」といえば、『バガボンド

「おつう」といえば、『バガボンド』なのである。

さて、この雑誌をというか、「ぴあ」のカタログのような冊子を買って帰ると、

わくわく亭の息子が、

「へえ。それ買ったの」というから、

「お宝だろう」と自慢しようとしたら、

とんでもない。

「コンビニでいま売っているからさ」だって。

ああ、「ぴあ」にやられたか~、という気分。

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井上雄彦尾田栄一郎(マンガ「ワンピース」の作者)と対談している記事がある。

武蔵が京都の吉岡一門と決闘する場面で、マンガ25巻から27巻まで70人を斬るのだが、

それについて、

尾田「人を斬るシーンは、描いていて辛くなりませんか?」

井上「辛いんです。あれだけ多く人を斬るシーンを描いていると…」と語っている。

人を斬って闘いに勝利しているはずなのに、それが信じられなくなるという。

勝利の価値を疑ってしまう。それではマンガが描き続けられなくなる。

井上「勝つことって、本当に勝利なのか?いいことなのか?と。矛盾した感情にかき乱されて、

 辛かったですね。ただ、まさにそういう感情を体験するために、わざわざ70人も斬るところを

 描いたわけなんですけど」

武蔵が作中で、勝利の意味を疑う場面があるのだが、それを描いていた井上雄彦がまったく同じ

感情を体験していたわけであり、その内的体験が作品に奥深さを与えているのだ。

吉川英治を超えた「宮本武蔵」があることを、世の時代劇映画、時代小説ファンにも知ってもらい

たいものである。