西原理恵子『女の子ものがたり』

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西原理恵子(さいばら・りえこ)さんの『上京ものがたり』が手塚治虫文化大賞の短編賞受賞

しているというので書評を書いたのが、2007年6月1日だった。


あれから3年半あまりだが、その間の西原人気のうなぎ登りは目覚ましい。

作品のアニメ化、実写映画化などに加えて、作者の映画、テレビ、CM(高須クリニック)への

露出があり、マンガ『毎日母さん』は150万部突破のベストセラーにと、

まさに彼女にとって“わが世の春”となった。


そこで、わくわく亭は『上京ものがたり』以来久しぶりに西原作品を読んでみた。

そのひとつが、『女の子ものがたり』である。



おそらく四国の高知らしい田舎から、単身上京してきて、食べるために悪戦苦闘しながら

ようやくマンガ作品を雑誌に描けるようになるまでの半自伝風作品が『上京ものがたり』

であり、わくわく亭は彼女を苦労人の女流作家林芙美子になぞらえ、その作品をいわば

西原版『放浪記』であると評したのだった。


『上京ものがたり』の主人公が、郷里の田舎町で、どんな生い立ちだったのか、どんな

ともだちと育ったのか、それを描いてみせたのが『女の子ものがたり』である。


ブスで、貧乏で、汚くて、家庭は半壊しているし、差別され、いじめられっぱなしの

女の子たち。

彼女たちが「普通」じゃない中学生になり、家出常習で、不良らしく育って、やがて

あぶなっかしいけど、男をつかまえて、なんとか自分で生きる場所をこしらへて行く頃、

主人公は、家にありったけのお金を母親からもらって、上京していくのである。


そして、ときに大嫌いだった友達の女の子たちが、「好きだ。ともだちだ。こんなともだちは、

一生できないと思う。」というラストのフレーズで、とくに女性読者たちを

泣かせるのである。

ガツガツして生活し、生きることは容易じゃない、お金は稼げるときに稼ぎ、

チャンスあれば恋人をつかむ。本音で生きる。そうした姿は、やはり林芙美子

連想させる。


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過激な表現は西原さんのお手の物だが、一転して、一人で生きる女の哀しさを

シンプルな絵で表現するのも巧みで、その過激ギャグから叙情的な静けさへの

画面変化が、読者の感情をゆさぶるリズムを生み出すのである。

西原理恵子のマンガが「泣けた本」日本一にランクインする所以は、その辺に

ありそうである。


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