4月21日の「女のレポート」
TBSラジオ番組から、今朝11時5分の「女のレポート」を紹介しよう。
アナウンサーの大沢悠里さんが朗読する女性リスナーからの投稿。
タイトルをつけるとすれば「バナナ」だろう。
戦後、われわれが少年少女の時代、バナナはとんでもない高級果物だった
なにか特別の祝い事、イベントでもなければ、一般家庭で見ることすらなかった。
今朝の投稿者は、一年に一度、小学校の遠足の日にだけ、お弁当にバナナが(それも一本とか
半分にしろ)ついたというから、
われわれよりは、すこし年代が下がるのではないか。
それでも、一年に唯一度食べることができたという貴重なバナナの物語である。
☆
遠足の前日、クラスでは生徒達の話題はバナナだった。
お母さんに買ってもらうように頼んであるとか、すでに買ってあるとか、下校したらお母さんと
一緒に果物屋さんに買いにいくんだとか、バナナの話題一色だった。
遠足の当日、不愉快な事件が起きた。
遠足に出発する直前、「わたし」の近所に住むA子ちゃんが、自分のリュックに入れてあった
バナナがなくなった、盗まれたと先生に訴え出たのだ。
先生は、
「だれがA子ちゃんのバナナを盗んだか、正直に申し出なさい。決して罪を責めないから」
と生徒全員に諭したが、名乗り出たものはいなかった。
不愉快な気持ちのまま、遠足に出発し、目的地でお弁当を食べたが、かわいそうなA子ちゃん
には、わたしをはじめ、なかよしが自分のバナナをすこしずつ別けてあげた。
その夜のこと、
わたしの家に、A子ちゃんの母親がたずねてきて、なにやらぼそぼそと話していた。
あとで、わたしの母が、
「だれにも、決して話してはダメよ」と口止めをして明かしたところでは、
A子ちゃんの家では高価なバナナが買えなくて、バナナを持たせてやれなかったという。
A子ちゃんのバナナが盗まれたというのは、だからウソのお芝居だった。A子ちゃんのお母さんは
先生と数人のお友達の家にお詫びに回ったというワケだった。
わたしはA子ちゃんの胸の内を思って、かわいそうでたまらなくなった。
学校では、クラスの誰一人、そのことを噂したりしなかった。
遠足から3ヶ月たって、とつぜんA子ちゃんの家族が引っ越しすることになった。お父さんの
転勤が理由だった。
さいごの日に、A子ちゃんがわたしにお別れを言いにやってきた。その別れ際に彼女が、
「あのねぇ…」と何かを言いかけて、後は言わずに行ってしまった。
バナナのことを打ち明けたかったのかもしれないと思った。わたしは、胸がつまって、くるしかった。
あれから、数十年が経ち、バナナはどこにでもあるし、大衆的な果物の代表になっている。
いいおばあちゃんになっているであろうA子さんは、バナナを見るとき、
いまでも、あの遠足の日のことを思い出すのだろうか。