土門拳の『風貌』(4)
1951年3月、49歳の小林秀雄を撮影した。
その夜は暴風雨だった。
書斎で机に向かっているところを撮影しようとしたところ、突然電気がきえて
家中が真っ暗闇になった。
「いやんなっちゃうな。今夜は停電すると思っていたよ。買い置きのローソクもきれてんだ」
暗闇に小林秀雄のキンキン声がひびく。
コワ~イ小林先生だと聞いていたから、土門拳は黙っていたが、暴風による停電ではなくて、
彼の撮影機器のせいでヒューズが飛んだのだった。
助手がヒューズとドライバーをもって台所に走った。パット電気がついた。
書斎はやめて応接間で撮ることになる。
これがその写真。
知性のかがやきがある小林秀雄の姿である。
撮影後、ブランデーらしい洋酒を出された。
土門拳さんと助手は一杯だけで、早々に退散した。
《小林さんは、酔うにつれて人にからみ出す、と聞いていたからだった》
なにしろコワ~イ小林秀雄である。