二口女(ふたくちおんな)
日本各地に、このような頭の後ろ側にも口があって、二人分の食事をする女の怪異談は
伝えられているようだ。食糧難の時代には、空腹を抱えた嫁が家族に隠れてものを食う、
というのを、口が二つある化け物の話にして言いふらし、嫁いじめに使った場合もあったろう。
『絵本百物語』の二口女はまま子いじめの、因果応報の物語である。
下総(しもうさ)というから現代の千葉県での話。
継母(ままはは)が、自分の産んだ子のみを愛して、先妻の子には食事を与えず、その子は
飢え死にしてしまった。
子が死んで49日目のこと、夫が薪割りをしていたが、斧を振り上げたとき、その妻が
後ろを通りかかるのを知らず、過って妻の後頭部に斧を当ててしまった。
頭が割れて血がおびただしく出たが、疵口はいつまでたってもふさがらず、やがて
唇の形を現し、骨が出て歯のようになった。
苦痛は耐え難く、おかしなことに食べ物を入れると、痛みがやわらいだ。
まるで口が前と後ろと、二つあるようであった。
絵の本文は、髪が蛇のように動いたといっている。
《首筋の上にも口がありて、食をくわんといふを、
髪のはし蛇となりて、食物をあたへ、
また何日もあたへずなどして、くるしめけるとなん。
おそれつつしむべきは、まま母のそねみなり。》
現代にも、親たちによる自分の子供たちへの虐待が後をたたない。
こどもに食事をあたえず、餓死させておいて、「いうことをきかないから、おしおきをしたら
動かなくなった」などど弁解している若いママやパパ(多くは内縁関係)がいる。
そういう親たちには「人面疔」(じんめんちょう)ができたりするらしい。
頭ではなくて、膝にできる大きな傷痕のことで、
つまずいて膝を打ったりした痕が、口になる病気である。
膝の傷痕が人間の顔のようになり、口がしゃべるケースもある。
膝の口が「飯を食おう」としゃべることから、
人面疔は俗に「飯食おう」という名でよばれる難病だそうである。