「アメリカ帝国」の終焉か

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2008年に読んだノンフィクションの中でも、この2冊はもっとも強い印象を受けました。



水野和夫さんの『金融大崩壊「アメリカ金融帝国」の終焉』(NHK生活人新書)は、

リーマン・ブラザース破綻から、あっというまにアメリカの金融崩壊がはじまってしまい、一体

冷戦終結後、世界の唯一の超大国となったアメリカ経済に何が起きていたのか、これから更に

何が起きようとしているのか、1990年代中央から今日までに新自由主義グローバリズム

がもたらして光と影の両面を、たくさんの具体的な統計的数値を分析して解説してくれる

またとない好著です。

アメリカ発の世界金融危機がはじまった2008年秋に、いそいで執筆して12月に出版され

ました。

日本は戦後、経済的にも、外交的にも、政治的にも、そして安全保障上でもアメリカに、ひたすら

たよって存続してきたと言えます。

そのアメリカが金融ビジネス以外、富を稼ぎ出す手段をもたないいびつな国家になっており、

1960年代の世界中が憧れの対象としていた「夢の国」はもはや幻想になっていたという

現実があらわになったのです。

超大国アメリカの富の源泉は危険な金融証券化ビジネスのみで、それだけで40%の稼ぎに

なっていました。工業は自動車産業をはじめ、ほとんどが衰退し、消費のためのサービス業しか

なくなりました。

40%をしめた金融投資ビジネス崩壊で、アメリカはもはや豊かな国とはいえなくなりました。

すでに、サブプライム問題が起きるはるか以前から、アメリカはじつは世界最大の「貧困大国」に

なっていたのです。

その内実を詳細にルポした労作が堤未果さんの『貧困大国アメリカ』です。

2008年1月に岩波新書として出版されましたが、

あまりに悲惨な世界一貧困者が多い国というアメリカの現実に、鳥肌が立つ思いをしながら読みました。

いつのまにアメリカはこんなにも「飢え」に苦しむ人口が多い国になっていたのか、愕然とします。

そこへ、決定的な追い打ちをかけたのが、2008年秋に表面化した金融崩壊です。

さて、どこまでアメリカの経済的悲劇は深まるのか、日本経済と直結しているアメリカ市場だけに

そら恐ろしい思いがします。


今朝のTBSテレビ「サンデーモーニング」は「米国のたそがれ・世界危機」スペシャル番組でした。

その番組内でパネルにして使われていた「貧困」アメリカの数値の数々は、どれも

『貧困大国アメリカ』が取り上げていた資料とおなじものでした。

一例をあげてみましょう。

・2005年アメリカで「飢餓状態」を経験した人口は3510万人(アメリカ農務省発表)で

 全人口のじつに12%です。

 そのうち2270万人は成人で、1240万人は子供たちです。

 かれらはフードスタンプという食券をもらって学校や施設で食べ物を手に入れる生活をしています。

 これは、アフリカやインド大陸の話ではなく、超大国アメリカの現実です。

・2006年アメリカ国内歳入局の発表では、1日7ドル以下の収入で暮らすアメリカ人が

 6000万人います。

 「北朝鮮の話ではない」豊かな超大国アメリカの現実だと、著者がいいます。

・現在の失業者は1030万人ですが、こんどの不況で、どこまで増加するかわかりません。

・日本のような国民皆保険制度のないアメリカでは、盲腸の手術をうけただけで、200万円ほど

 かかり、それだけで家を売ってしまうハメになります。

 いま医療保険に加入していない人口は4600万人で、病気になっても治療代が払えないので

 病院から追い出されてしまいます。

・その一方で2008年世界の軍事費120兆円の50%近い55兆円はアメリカのものです。

 もちろん、2009年からは軍事費予算は大幅に減少されます。すでにオバマ次期大統領が

 明言しています。もうそれだけの大金が国庫になくなったのです。

アメリカ国民一人当たりの負債額は1600万円に上っています。

 とうてい貧困大国のアメリカ国民には、返済できそうにありません。


世界覇権大国アメリカは、今回の金融崩壊によって、世界一豊かな夢の国という1960年代に

つくられたイメージが剥がれ落ちて、「貧困大国」の悲惨な実態が、ことし明らかになって

くることでしょう。


他人事ではありません。対岸の火事ではないのです。

日本はすべてアメリカの後を追って生きてきた戦後の60有余年でした。

アメリカからの「貧困化」がすでに日本にも及んでいます。

派遣切り、非正規雇用、格差、ネットカフェ難民、路上生活者、そして貧困.

経済グローバリゼーションの光と影は、まちがいなく日本にも暴風雨をもたらそうとしています。

その責任の大半は、アメリカの強欲な金融資本主義にあるとしても、あとの責任はアメリカからの自立を

選択できないままやってきた日本の貧弱な政治にあるといわざるを得ないでしょう。

国民の苦境を傍観しないで、政府は救済の責任を果たせ!!


けさの新聞に「無名塾」主催の俳優仲代達也さんが、

貧困にうろたえるな、人間は太陽があれば生きることはできる、と檄をとばしています。