片岡球子(3)

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 これは「面構」シリーズがはじまるおよそ5年前(1961)に発表された『幻想』である。



 宮内庁で見た舞楽太平楽」に触発されて描いたものである。

 爆発する色彩の交響楽が演じられている。すでに、日本画の定型から脱して、片岡球子の新世界が目前

に開かれたといえる、強烈な幻想性と存在感がある。

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 画像上の人物は蘭陵王(らんりょうおう)。

 中国の北斉に武勇の誉れ高い美男の王がいて、出陣するときには、美しい顔を隠すために怪異な仮面を

つけて戦い、敵を打ち破ったという。

 その故事にちなんだ舞をまうと、世は平和になり、国は豊かになると信じられて、日本では舞楽にとり

いれられて、もっともポピュラーな曲となった。

 みるからに、異様な仮面である。その異様さ、怪異さが超自然的な力を発揮するかのようではないか。



 下の画像は見蛇樂(けんじゃらく)。

 蛇を食するのを好んだ西方の異人が、好物の蛇をみつけたときに現すよろこびの舞である。舞台には木

の蛇を置いて、そのまわりを回りながら舞うのである。

 
 仮面の額には筋肉が盛り上がり、血管が浮き出し、頬には深いシワが幾筋も刻まれており、舞楽曲のな

かでも、もっとも恐ろしげな仮面だそうである。

 まるで、映画『羊たちの沈黙』のハンニバル博士みたいだ。

 玄宗皇帝が戦場から凱旋したときに舞ったと言い伝えられているらしい。

 戦場で殺したおびただしい敵兵の怨みを、この恐ろしい仮面の舞で打ち払ったのではないか。

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 物語も怪奇であるが、片岡球子さんの『幻想』にもまた、邪気を打ち払うすさまじい力がそなわってい

るようではないか。