尾道少年 ヒカルくん(4)

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 時刻は午後の2時ころ。

 車は向島から長江口にでて、ゆっくりと朱華園の前を通る。店舗の前に並ぶ長い人の列。30人はいる。これでは1時間も暑い屋外で待つことになる。写真がそれ。

 花本夫人が、朱華園よりおいしいという店に行ってみるが、ここも人の列。20人はいる。

「尾崎にねえ、以前に行っておいしかった店があるから、そこへ行ってみるね?」
「栗原にも人がならんどるとこがあるが。それなら、尾崎へまずいってみよう」
 ということになる。

 ところが、浄土寺下まできてみても、ラーメン屋が見当たらない。
「ありゃあ。ないが。どうしたんじゃろうか。ラーメン屋が消えたがね」と花本夫人。
「消えたラーメン屋」と僕。
「ラーメン屋が消えた。消えた、消えた」とヒカルくん。
「見落としたかもしれんねえ。もう一回まわってみよう」と車を回す。
「しっかり見ろよ」花本さん。
「見取るがね」と夫人。
「消えたラーメン屋」とヒカルくんが囃すから、せまい軽乗用車の中はさわがしいこと。
「やっぱり、ない。消えた」

 あきらめて、栗原をめざす。が、未練で、もういちど朱華園前を通ってみる。やはり長い人の列。

 海岸通りへと右折すると右手に、赤い看板で「人気大爆発 尾道ラーメン 一番館」の文字。ここならどうやら席がありそうだった。駐車場所もあるし。
「ここは、最近よう宣伝しとってでね、若いひとらに人気がある店ですよ」と夫人。

 やっと、僕たちは尾道ラーメンを食べることができた。 

 僕は分厚いチャーシューの脂身の部分はにがてとしているので、ハシで切断して器に残していた。

「脂身はわたしは大好きで、魚でもチアイのとこがすきなんです。主人は白いところしか食べないんですよ」と花本夫人。
 じつは僕のうちでもそうなんだと、話していると、ヒカルくんが、
「あのねえ、クイズだよ。おじさんだけ答えてよ。おじいちゃんとおばあちゃんは答えを知ってるから」

 花本さんは支払いをするために席を起った。夫人は車を駐車場から出すためにつづいて起った。

 ヒカルくんのクイズは、実はさいごまでテーブルに残っているための方便だったらしい。

「おじさんは、チャーシューを食べないの」
「うん。脂だけだからね」
「いい?」ヒカルくんのハシがのびてきた。
「いいけど、脂身だけだよ」
 すでに脂身はヒカルくんの口の中にあった。
 こどもらしいこども。ヒカルくんの横顔がとてもいいんだな。


       (5)につづく