ネズミの食事風景

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 わくわく亭が住んでいる大泉学園町は、いまネズミの被害に悩まされています。どの家でもネズミが出没して、天井裏や床下を走りまわるばかりか、人が居ようとおかまいなしに、居間を横切り、階段を上り下りして、柱を傷つけ畳は咬むし、仏壇を荒らし、台所は自分たちの食卓のつもりでいるらしい。
 
 保健所から町会経由で、ネズミ駆除の毒エサが無償で配られてきます。そんなエサ、どこに仕掛けようと、ネズミが食べたことがないのは、このあたりのネズミは百戦錬磨であって、保健所の毒エサについては完璧に学習ずみなのでしょう。とにかく、そんなものにひっかからない。

 ネズミ駆除の専門業者にきくと、結局はネズミの通り路に粘着シートを仕掛けるのが一番効果的だということのようです。

 ネズミの種類も豊富です。標準的なイエネズミ(これはグレーで小形)、畠が宅地化して逃げてきたノネズミ(かれらも大きくはない)、都心から勢力圏を拡大してきたドブネズミ(こいつは、でかい)、そしていま激増しているのが中形で凶暴なクマネズミ。
 
 ネズミたちは地中にトンネルを掘って床下にあらわれる。家から家をトンネルのネットワークで結んでいるから、一軒で駆除しても、すぐかわりが「となりが空き家になったらしいよ」といった感覚で入れ替わってくるようです。

 足音がしたり、台所のすみっこのワタボコリが不自然に出ていたりしたら、替わりが来たと考えて、まずは粘着シートをしかけておくことにしています。

 さて、わがわくわく亭のクマネズミです。人を人とも思わない態度のでかいネズミです。床下から壁の中(むかしのような土壁はなくなって、いまはグラスウールのような断熱材がはいっている)をさっさと通り抜けて、天井を犬か猫でも入ったかと思うほどの、ドタドタという大きな足音をならしてはしります。
 先日勝手口のガラス戸を妻がひらいたところ、外にクマネズミがいて、こっちを見ていたそうで、逃げ出す気配もなく、むしろしげしげと妻の動きを観察しているようすなので、あきれたほどにずうずうしい態度だったらしい。野良猫がそんな態度をとるでしょう。あれですよ。
 また、妻がひとりで昼間テレビを見ていますと、つい目の前を横切るものがいて、それがクマネズミだったといいます。「わたしを、完全にバカにしてるのよね」

 ある朝、妻がそっと僕のところへやってきて、となりの和室のそとの濡れ縁を見てみろ、といいます。
ガラス戸が開けてあって、網戸だけになっていました。
 みると濡れ縁の上にクマネズミが起った姿勢でなにかを食べている最中でした。それ、リスが後足で起ち、両手をつかってものを食べる姿をみせるでしょう。ちょうどあの恰好なんです。
 僕も妻も、おもわず見ほれてしまいましたね。

 シートには小形で灰色をしたイエネズミが掛かるばかりでしたが、ついにある朝、茶色っぽいクマネズミが一匹掛かりました。
 
 ネズミ処分は亭主のわくわく亭の仕事ときまっていますから、「きゃっ」と下で声がしたと思ったら、妻が二階にかけあがってきて、まだ寝床にいた僕を起こしました。
 
 クマネズミは黒いつぶらな瞳で僕を見上げていました。シートの粘着材でみうごきもできないのですが、悪びれることもなく、堂々たる態度でした。
 
 僕はシートを折ってフタをし、ビニール袋にいれて口を結び、生ゴミの入った袋に葬りました。

 あれから、あんな大胆なクマネズミをみかけません。こないとなると、なんとなく物足りないというか、へんな気分です。