『埋門』読後感想

ブログ『よっこの木洩れ日ノート』から『埋門』の感想を転載させてもらいます。




森岡先生、久しぶりの発刊ですか?
いつもなら森岡先生のブログ「わくわく亭雑記」で
発売前から話題にのぼるのですが
今回は発売されるまで全然知らずにいました。
それだけ私のブログ活動が怠慢になっていたってことですね。^^;

でも、こんなにも早く手に入れて感想を書くのは初めてかもしれません。
いつもなら、ファンの方たちが熱く語り合っているところを
うらやましく眺めているばかりなのに
今回は早々と手に入れて、
Amazonにレビューを一番乗りで書かせてもらいました。^^v

森岡作品でソフトカバーの本も珍しいですよね。
今回は小説というより、犯罪史実の解説本の要素が多いからですか?
それでも人情味あふれる物語が熱かったです。

子供の頃に、大岡越前ですとか遠山の金さんなどの時代劇を喜んで見ていました。
今年になって、池波正太郎原作の鬼平シリーズをアニメで見たり
あさのあつこ弥勒シリーズにハマったりと
同心だとか奉行だとかの捕り物にかぶれていたところです。
しかも、妖狐が絡んでくるとあってはこの物語、
森岡作品でなくても手を出していたかもしれません。^^

今回のこの作品、小説というより犯罪史実に基づく再現ドラマのようでした。

1話目の「中橋稲荷の由来」
商家の妻女に取り憑いた狐の霊をいさめるが如く
夫の勝蔵をはじめとして同心や奉行が、
あれやこれやと根気よく手をこまねく様子が
なんだか滑稽に思えてしまいました。
堅物なお役人たちが、ですよ、
狐憑きなどという不確かなおとぎ話のようなことに
何度も白州を開いて吟味したのです。
それが犯罪史実として記録されていることが不思議でもあり
江戸の人の粋なところでもあるのでしょうか。

衰弱していく妻女を助けようと
最後まで手を尽くした様は、
江戸に暮らす人々の人情深さを感じました。
それが稲荷神社となって祀られるゆえんなんでしょうね。

中橋狐だけでなく舟橋狐がもう少し報われて欲しかったです。
被害者(狐)であり、功労者(狐)でもあるわけですから。
舟橋狐の魂は祀られることもなくどこへ行ってしまったのでしょう。


2話目「埋門」
23歳で死罪になったたばこ屋女房つると30歳のイケメン科人庄次郎との恋物語
今でいうところの『昼顔』ですか?^^
牢の中で鞘(囲い)を挟んで見つめ合っただけで恋に落ち
命がけで牢抜けするまで恋い焦がれて・・・

この手の恋愛物語は、語るのも野暮なのでスルーしてですね、
私が気になったのは、牢の中での生活事情みたいなところです。
子供の頃に見ていたお白州や捕り物の時代劇では、
裁きをしてからのことはほとんど語られていなかったので
興味津々で読ませてもらいました。
食事やトイレ事情。身分?牢内での上下関係や役目についてなど
刑務所暮らしのあれこれを知るようでした。

どうやって脱獄するのだろうって、その手口が気になりました。
地獄の沙汰も金次第?
でも、一番は人柄だったように思います。
二人の恋の行方を、囚人たちも一緒に応援していたようで
ここでも人情深さを見せられました。

そして、鬼平のような、信次郎(弥勒シリーズ)のような
見事な推理力と捜査力を持ち合わせた同心杉野栄之助に気を引かれました。

報われない結婚生活の日々の中で、
万引きという軽犯罪で身を崩し、
科人をかくまうという罪で死罪になってしまった
若い女の人生を
可哀想と思うか、うらやましいと思うか
それは人の価値観で違うのでしょうね。

気になったのは、つるは死罪を受ける最後の最後まで
「白金台町たばこ屋女房つる」と自ら名乗り、
「違いない」と念押しにも応えていたところ。
既に離縁されているのだし、
今から愛しの庄次郎の元へ行こうというのだから
そこは
「大宮無宿庄次郎女房つる」と名乗りたいとは思わなかったのでしょうか?
何度も繰り返していたでしょ、
「白金台町たばこ屋女房つるに相違ないか」って。

庄次郎は無宿なんです。身請け人が居ないんですよね。
身請け人というか後継人というか肩書みたいなものが、
いかに大切で始終ついて回るものなのだと思い知らされました。


Amazonのレビューでの☆を4つにしたのは
☆5ではあまりに肩入れしているのがバレバレなのと、
この作品、私には少し言葉や漢字が難しかったからです。
このくらいが勉強になってちょうどいいんですけどね。^^