怪しい深夜電話
「ちょっと薄気味悪い深夜電話」を書きながら、思い出した話。
これも深夜の電話だった。
零時過ぎだった。電話が鳴ったので、僕が出た。
男の声である。
聞き取りにくい低い声。
「もしもし、よく聞こえないが、○○?」僕は息子かと思って訊いた。
ぼそぼそいう声。
「どうしたんだ。こんな遅い時間に。声がおかしいが、まさか振り込めサギじゃないだろうな」
「ノドが痛い…」
「カゼでもひいたのか」
「ノドが痛くて、ツバ吐いたら、血がのってたから、明日病院へ行こうと思って…」
『血がのってた』とは妙な言い方だ、と気になった。
「病院へ行っておいで」
「それで、内科がいいか、耳鼻科がいいか、どっちがいいかと思って」
「それは耳鼻科がいい。耳鼻咽喉科といって、たいていノドも診てくれる」
「わかった。そうする」
「用件はそれだけか」
「うん」
「じゃあ、気をつけて」
電話は終わった。
翌朝、女房が彼女の留守中に、息子から電話が来るはずだから、あることの返事を聞いておいてくれ、
と言ったので、僕は昨晩の話をした。
「ノドが痛いなんて、聞いてない」と言う。
「ひどい声をしていたぞ」と言うと、「おかしいわね。わたしが昨日の朝電話で話をしたときは
なんともなかったわよ」と。
仕事の昼休み時間に、息子から電話があった。
「おや、病院へは行ったのか」
「病院?なんの話?カゼもひいてないし」
「でも夕べ電話してきて…」と昨夜の会話について言うと、
「そんな電話してないよ」とのこと。
では、僕は誰と話したのか。
外出から戻った女房に報告すると、
「それは、振り込めサギじゃないの。あとから、また電話してきた、手術代を振り込んで
くれって言ってくるんじゃない。よかったわね、その前に○○と話ができて」
○○とは息子のこと。
あれから、あの相手からの電話はない。
そして、ツバを吐くと『血がのってた』という言葉を、「血が出た」とか「血がついていた」
と僕なら言うが、どこか地方でそういう言い方をするのだろうか、それはどの地方だろう、
などと考えたりした。
深夜には、怪しい電話がかかってくる。