老いの支度
女房の知人夫婦が引っ越しをする。
いまはわが家と同じ町に仮住まいしているが、それまで住んでいた家が(正確には、家屋は
解体して土地だけ)売れたので、近く北海道の釧路へ引っ越すことになり、女ともだちが
集まって送別の会食をしたのである。
知人夫婦は年齢が70歳。夫は高校の英語教師を、60歳の定年で辞め、それから好きな
北海道へ夫婦でたびたび出かけ、ことに釧路湿原がお気に入りで、数ヶ月から半年も
長期滞在したりしていた。いつのまにか、釧路湿原入り口近くの民宿で手伝いをするうちに、
地元にたくさんの友人ができた。
釧路湿原入り口に、賃貸マンションの建築がはじまったとき、ここを老後のすみかにする
決心をした。4階建ての最上階で、湿原の眺望が最高の部屋を申し込んだ。
最初の申込者だった。
そのまえに確認したことは、徒歩で行ける距離に総合病院があること。日常の買い物が
近くでできること。
次は東京の住まいの整理である。
書籍を古書展へ、衣類は整理、着物は名古屋にあるリサイクル専門店に引き取ってもらう、
釧路の部屋は1LDKで、引っ越し荷物は最少にする。
37坪の土地は3000万円で売れた。
このお金と夫婦の年金とで、あと20年、90歳まで生活するとして、釧路の部屋は
賃貸を選択した。
夫婦の家族は息子がいる。彼はオーストラリアで結婚して永住しているから、
夫婦の住居が東京であれ、釧路であれ関係はない。
墓地は都内にあったが、これも整理できたとのことで、先祖の遺骨は釧路湿原で
散骨するのだそうで、その許可も得たそうである。
もちろん自分たちの骨も将来同様に散骨してもらうつもりだとか。
あとは、釧路湿原前の新居へ引っ越して、民宿の手伝いをしながら、土地の人々の
なかに溶け込んで、夢の晩年をのびのびと送るだけだという。
なんと、きっぱりと計画的に整理をつけて、「老い」の生活設計ができるご夫婦だろうか。
おみごとである。