高齢者政策の切り札は恋愛か

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『熟年性革命報告』という著書があるノンフィクション作家小林照幸さんの

「どんな高齢者政策よりも恋愛」というインタビュー記事を読んだ。

小林さんは高齢者の恋愛と性の実態を、高齢者介護施設を取材しながら3冊の本を書いた

そうであるが、その取材からユニークな福祉政策が見えてきたらしいのである。

老人ホームなどで職員にとって最大の課題は、入居者同士のトラブル、中でも恋愛沙汰に

どう収拾をつけるかということらしい。

70、80になっても人間は男女の集合する生活環境に入ると、恋愛や性的関係がはじまる。

しかしそれは前向きな福祉政策として考えてよいのではないか、という。

高齢者恋愛の効用をあげると、つぎのようになる。


第1に、恋愛をすると、健康増進に前向きになる。恋愛も命があってこそ実るのであり、

進んで節制し健康に気をつかうようになる。


第2に、おしゃれをする、身だしなみをよくする、部屋を整理整頓する、明るい世間の

話題に関心をもって、恋人に好感を持たれようとするから、生活の文化度が高まる。

ケータイをつかって恋人と二人だけで会話しようとするから、ケータイやパソコンと

いった新しい機器を使おうとする意欲がわいてくる。


第3に、経済効果が生まれる。貯蓄があり年金の受給がありながら消費にお金を回さない

多くの高齢者と違い、恋愛をすると、新しい服、化粧品、装身具を買う。外出して

食事をしたり観劇、旅行に出かけて、二人ですごすためにお金を使おうとする。


第4に、一人暮らしの高齢者における「孤独死」を避けるセーフティーネットになる。


人間は老人施設で、風船バレーや塗り絵だけでは充実感を得ることはできない存在だ。

自分以外の人間の手のぬくもり、抱かれるときに感じる力、会話するときにみせられる

目の表情、それらによって自分の命が充実することを知っている存在である。


小林さんのインタビューはつぎの言葉で締めくくられている。

「高齢者の恋愛の実態を知るにつれ、私は、老いることへの恐れがなくなった。

寂しい灰色の世界、と思っていたみちには、最後の一歩まで希望の灯がともっている。」



もちろん、高齢者の恋愛にも付帯する問題はいろいろある。

恋愛にはお金がかかるし、どちらかが気が変わったりする。若いときと同じだが、

おなじホームに暮らしていれば、いつも顔をあわせるからトラブルになる。

相手が病死したりすると、その心の痛手は若い頃とは比較にならないほど深いという。

また、家族が反対したり、相続の問題がからんだりして、とんでもない苦痛を味わったりする。


しかしそうした心配があろうとも、それ以上の充実感があるのであれば、

高齢者恋愛は、世界で高齢化社会のトップを独走している日本にとって、またお寒い

高齢者福祉、医療、年金の諸問題をのりこえる強力な政策になるだろう。


と、まあ、さいわいなことに、女房がいてくれるわくわく亭は、ひとごとのような顔を

して高齢者恋愛について感想を記しているのであります。