ムスリム同胞団とは何か?(2)

ムスリム同胞団の基本的な思想とは、それはすなわち創設者バンナーの思想であり、

イスラム原理主義の思想なのです。

「西欧の支配に屈して腐敗した国家を救い、理想的なイスラム社会を建設するためには、

コーランの教えを厳格に守り実践する、真のイスラム教徒とならなければならない。

真のイスラム教徒の男女が結婚して家庭をつくり、真のイスラム家庭が集合しイスラム

社会が建設される。そして真のイスラム国家が建設される」と考えます。


現実には西欧がエジプトを占領し、イスラムの地に、異教徒の習慣、言語、文化、宗教を

持ち込んできて、西欧的な近代化は「持てる者」(少数の富裕層)と「持たざる者」(多数の

貧困層)と格差を拡大させ、「アッラーの前ではすべての民は平等である」はずの

イスラム社会を崩壊させた。

「そのような西洋的なイデオロギーは腐敗であり、絹のカーテンであり、その背後には

支配者の貪欲隠されている。イスラムの純粋さを取り戻さねばならない」と訴えます。

これがイスラム原理主義イデオロギーなのです。


第二次世界大戦後に、イギリスが、イギリスの後にはアメリカが支援してパレスチナの地に

イスラエルを建国させたために、ムスリム同胞団の行動はさらに複雑化します。


1977年1月にエジプト全土に「食糧暴動」が起きました。

それは今回の「反ムバラク蜂起」とよく似ています。

カイロ、アレキサンドリアスエズなどで政府機関の建物や警察署に攻撃をしかけ、

高級車やナイトクラブが放火されました。

警官隊と軍隊が出動して鎮圧しますが、暴動で死者80人、負傷者は600人、逮捕者

1200人に上りました。

このころ富裕層のトップ10%は全国民所得の60%を得て、下層の60%の所得は20%

にすぎなかったのです。

富裕層は不正行為、汚職によってますます富み、貧困層はいよいよ貧しくなりました。

西欧的近代化をすすめる富める支配層は、政教分離を呼びかけます。

これに対して多数の貧困層は、イスラム倫理規範への回帰に傾きます。

そこにイランのイスラム革命が起こりました。

エジプトには、ことし突如として、反ムバラク政権のデモ、そして革命がおきました。

はたして、バンナーが創設したムスリム同胞団は、こう叫ぶのでしょうか。

「神はわれらが目標。予言者はわれらが指導者。コーランはわれらが憲法。闘争は

われらが道。神のために死すことはわれらが願いの中でもっとも高尚なこと。

神は偉大なり、神は偉大なり」


もともとエジプトは豊かな農業国でした。

石油産油国ではないために、相対的に経済的には低成長国となり、

国家の収入は、(アメリカなどからの)海外援助、出稼ぎによる海外からの仕送り、観光収入、

スエズ運河からの収益の順になっているそうです。


軍隊は強力です。全軍で47万人、うち陸軍が30万だそうです。

予備役が加わると100万人になります。

エジプト軍は1952年のエジプト革命でナセルが打倒したファルーク王政から

没収した莫大な資産の管理、運営をしており、エジプト最大の資産家なのです。

中国の人民解放軍のように不動産、武器工場、会社をもっておりビジネスをして

いる巨大な利益共同体です。軍人とその家族をふくめると

軍関係ではたらく人口は800万~1000万人ともいわれ、エジプト総人口の

10%にも達します。


ですから、エジプトの民主化の将来の鍵を握っているのは、軍の共同体とムスリム同胞団だと

いわれる所以なのです。

いますぐに議会選挙が公正に行われたなら、はたしてムスリム同胞団はどのくらいの

得票をするだろうか。20%という人、いや50%という人。

イスラエルとの平和条約は欺瞞だとして、破棄するというかれらの力を

イスラエルアメリカも危機感をもって注目することになるでしょう。



参考文献としては、岡倉徹志著『イスラム急進派』(岩波新書)があります。

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