宮本常一

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今日から秋の読書週間である。

朝日新聞が作家と美術家4人に、若者に贈る3冊の本を、それぞれに尋ねている。

面白いことに、2人が民俗学者宮本常一の『忘れられた日本人』(岩波文庫)を

挙げている。

その2人とはノンフィクション作家の佐野眞一さんと芥川賞作家の南木佳士さんである。

ともに「土佐源氏」をはじめて読んだときの、ただならない感動を語っている。

佐野さんは「これまで読んだどんな本にも感じられない異様な熱気と底力を孕んでいた」

と語り、それから40年を経て、ついに宮本常一の評伝『旅する巨人』を書くに到る。

南木さんは「なかでも『土佐源氏』は傑作だ」「読んでおかないと損だ」と言い切る。


わくわく亭は「ちくま日本文学」の文庫で宮本作品の代表作を読んでいるが、

『忘れられた日本人』の中では、「対馬にて」「子供をさがす」そして「土佐源氏」が

傑作だと、くりかえし読んでいる。

柳田国男の後継者として宮本は民俗学的な手法、つまり各地を旅しながら土地の古老から

実生活の話を聞き取り記録して、日本人の文化の原点を明らかにする。

土佐源氏』は女道楽にあけくれた盲目の博労からの聞き取りで、博労は橋の下で

乞食のような命を生き延びているのであるが、彼が語るあこがれの女性との

一生一度の恋の成就をもって、もはや現在が橋下の乞食であろうとも、盲目になろうとも、

悔いることのない人生であったとする、まことに人間くさい厚みのある証言となっている。

これは「読まなければ損」する傑作であると、わくわく亭も若者に贈りたい。