「ジジイ」に脱皮した北野武さん

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写真はお笑い芸人であり映画監督でもある北野武さん。

なにもカンヌ映画祭で最新作『OUTRAGE』が受賞しなかったからしょげている姿、

というのではない。

季刊誌「SIGHT」の春号に掲載された写真なのである。

北野武、『男の更年期』を語る」というインタビュー記事に添えられた写真である。

この記事で面白かったのは、彼が「絶不調」だったと振り返る「更年期」の時期のことである。

それは57~60までの4年間くらいのようである。

1947年(昭和22年)1月の生まれだから、2004年~2007年ということ。

映画「座頭市」公開が2003年だから、その後「更年期」の自覚があって「絶不調」期に

突入し、そして「アキレスと亀」公開の2008年ころから「回復」傾向になり、

「OUTRAGE」公開予定の2010年の今年、「更年期」脱出宣言ということらしいのが、

そのインタビューの内容である。

「絶不調」期間に「TAKESHI’S」と「監督・ばんざい!」の2本が公開されているが、

世評は別として、当人は、

「うん、『TAKESHI’S』はやっぱり、それが表れてるよね。おかしくなってんのね。

で、『TAKESHI’S』でダメで、少しはちゃんとやろうと思って、『監督・ばんざい!

じゃない。でも、あれも完全におかしいじゃない。『アキレスと亀で』まあまあ普通の映画に

なったんだ」

と作品として「絶不調」を認識している。


60歳の壁ということを語っている。


「人間っておもしろいのは、男は、子供から青年になるとき、青年から大人になるとき、

大人からオヤジになるとき、オヤジからジジイになるとき、ってあるんだけど、やっと

オヤジからジジイに脱皮したなと思ってるわけで」

その脱皮の時期に、「更年期障害」に悩ませられたと語る。


「気力がないの、やる気が、とにかく早く仕事を終わりたいだけ。

早く終わって何するわけでもない。眠ったりとか、喫茶店に行って、お茶飲んで本を

読みたいとか。で、本読んでんだけど、寝ちゃったり、何か、とにかくね、変わったこととか、

新しいことをしたくなくなってたなあ」

「どっか崩れてたのかもわかんないね。そうだ、性的にもね、どうでもよくなっちゃてたからね」


2008年後半ころから、気力が回復してきたようで、それを北野武流にいえば、

「オヤジからジジイへの脱皮」に成功したとなる。


「ジジイになるとき、ほんとに食えなくなるし、ご飯2杯、絶対食えないもん。

だから、身体相応だよね。この歳で、それ以上食える人は、下手すっと死んでんだと思う、

たぶん。太って。身体って、生きようとする身体は、ちゃんとセーブするよね。

本人の力じゃなくて、身体自身が『もういい』って感じなんだよ。

もう食えないっていうのは、そういうことだよ」


脱皮できた北野武さんは、これからいい映画をつぎつぎと撮るのではないかという

予感がある。

「もう食えない」という感じが分かってくると、新たな仕事の地平が開けてくる、と思う。

わくわく亭もオヤジからジジイへと脱皮したなという体感があったから、

この武さんの話はよく分かる。

「もう食えない」はご飯ばかりじゃない。仕事や、お金や、愛情や、あらゆる

欲望の対象を、それまで、いくらでも「食える」とばかりに、しゃかりきになっていた身体が、

「もう食えない」と気づく。

それ以上やっていると、「下手すると死んじゃう」よ、ということも分かってくる。

価値観に変化が生まれてくる。

自分の身体自体が、精神自体が「これだけ食えればいい」と分かってくる、それが

ジジイへの脱皮なのである。

腹八分目というが、ヨーガでは、それでも多すぎると説く。

ヨーガでは、腹六分目、という。