わたしの人形は良い人形

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潮出版社から「山岸凉子スペシャルセレクション1」として、これが書店に出たので

表紙にひかれて買いました。

「わたしの人形は良い人形」「鬼来迎」「ハーピー」「グール」「白眼子」の5作品

が収録されている。

表題の「人形」はやや平凡で、表紙にだまされたかな。人形をつかった因果物語は既視感があって、

また人形の魔力に対抗できる男子高校生の登場の仕方が、不自然であり、恐怖感もいまひとつ。

5篇の中では、「白眼子」(はくがんし)が一番の力作。

2000年、作者53歳の作品。

山岸さんは北海道生まれで、札幌の旭丘高校から北海道女子短大美術家の卒業。

それだけに終戦後の小樽、札幌の雰囲気をうまく作品にとりこんでいる。

両親を室蘭の空襲で失った少女が、小樽の闇市場で知り人とはぐれてしまい、

孤児になりかかったところで、白眼子と名乗る男の霊能者にひきとられて、ふしぎな体験を

かさねる。白眼子の名前が知られて新聞に出ることで、少女の縁者と再会でき、

やがて白眼子のもとを去る。結婚をし、子供も出来るが、船員だった夫が海難事故で

行方不明になる。彼女の夢枕に白眼子が立って、夫は8月26日に無事帰ると

告げる。その夢の通り、夫は救助されて戻ってくる。

ある日新聞広告で、白眼子が彼女を捜していることを知る。彼はガンで死が近かった。

再会できたとき、白眼子が、かすかに明暗がわかる弱視でありながら、彼女だけが

光に包まれた存在として見えたと告白する。それで小樽の闇市で彼女をみつけて

引き取ってくれたのである。光るから「光子」と名をつけてくれたのだった。

白眼子の死で物語は終わるが、しっかりとした骨格をもつ人と人との出会いの

不思議さを覚える物語にできあがっている。

戦後の札幌に、モデルとなった霊能者がいたのではないだろうか。

白眼子の姉のキャタクターや私生活などもリアルで、作者は当時の記憶や資料をもとに

描いたのかな、と思わせる構成力がある。

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