第11回手塚治虫文化賞新生賞を受賞したのぞゑさん

 今朝の朝日新聞で受賞作品が発表されていますが、ひときわ僕の目を惹いたのが新生賞受賞の漫画版
神聖喜劇」で作画を担当したのぞゑ のぶひさ さんの経歴です。
 
 原作の「神聖喜劇」は大西巨人さんが四半世紀をかけて書き上げた超弩級の長編小説。
 東大中退で旧日本軍に召集された主人公が、非人間的な軍隊組織に苦しめられ、それに抗するに彼の超人的な記憶力を武器に、知力でもって軍隊という理不尽な世界に抵抗していく物語です。

 漫画化を企画し、脚色した岩田さんと共同で10年かけて画いたもので、原作に徹底的に忠実に画くため、雑誌連載はせず、自費出版も覚悟して完成させたそうです。
 さいわい昨年から今年1月にかけ6巻として幻冬社から出版されました。

 その間は定収入もなく、栃木県の自分の手で建てた家に住んで、ひたすら画いたということです。

 のぞゑさんは58歳。漫画家になったのは40歳すぎで、それまではいくつもの職種を転々として、さいごに大阪でスパゲッティの店をやっていたらしい。
 金にはならないし、ぜんそくにも悩んでいた。なにや別のことをやらなければ、とあれこれ考えあぐんでいたらしい。

 ある日店員が読んでいる漫画雑誌の「大賞100万円」の賞金広告をみて、にわかに店をたたんで漫画家になるため上京したのです。
 
 知り合った岩田さんから「神聖喜劇」漫画化の企画をきき、奥さんの親の遺産で食いつなぎながら、ひたすら「神聖喜劇」を描いて10年をついやした。
 
 上手な絵でもなければ、きれいな絵でもないようですが、
 選評者に「不可解なまでの情熱にあふれた異端の面白さがある。現代のマンガがこういう表現を引き寄せてしまったというすごみを感じる」と言わしめているほど、のぞゑさんのスパゲッティ店を閉めて上京してからの、すべての時間ととりつかれたような情熱が形となったのが、この6巻の作品なのです。

 すごい漫画作家の誕生です。これは読まなくちゃ。