鍛冶が媼(かじがばば)
三匹の狼が、アクロバットのようなオオカミ・ピラミッドをつくり、てっぺんに
大きく口が裂けた老婆をのせている。
怖いというより、オオカミたちがひっくり返らないよう懸命に婆さまを支えていて、
健気である。下のオオカミの顔なんか、かなりしんどそうである。
本文にはこうある。
《土佐国野根という処に鍛冶屋ありしが、女房を狼の食殺しのり移りて
飛石といふ所にて、人をとりくらひしといふ》
いまの高知県である土佐の国に、野根(のね)というところがあった。野根の刀鍛冶で
国重(くにしげ)というものがいたが、その女房が室戸というところへ、刀の代金を
受け取りに行く途中で道に迷った。
気がつけば、たくさんの狼に取り巻かれ、ついには喰い殺されてしまった。
ところが、この女房は狼に乗り移られて、「鍛冶がばば」という化け物になった。
それからというもの、旅人を襲っては、取って食らうこと、おびただしいものがあったという。
絵で見たところ、彼女はオオカミたちの「女王さま」のように振る舞っている。
土佐の女は、こうでなくてはなるまい。