庄野潤三さん逝去

庄野潤三さんが亡くなられた。

88歳で、老衰のため死去と報じられている。

いかにも庄野さんにふさわしい死因だと思う。

芥川賞受賞作の「プールサイド小景」からはじまって、「静物」「夕べの雲」など愛読した。

家族との日常生活を描写、写生する「私小説」系の作家であったが、

私小説」に多い作家の破滅的な私生活を素材にするような作品ではなくて、

平凡におだやかに過ぎてゆく日々を、意味深いものとして細部にわたって大切に

写生してゆく作風だった。

吉行淳之介遠藤周作安岡章太郎たちとともに、「第三の新人」とよばれた作家たちの一人で、

まだ学生だったわくわく亭は新しい文学の流れだと感じて、夢中になって読んでいた。


庄野潤三さんに面識はないが、わくわく亭が出版した著書を贈呈すると、

かならず丁寧な手書きの礼状をいただいた。

大家と呼ばれる作家が、贈られた本に礼状を書くことも、あまりないことだ。

さらに儀礼的な礼状というのではなく、内容も読んでいることが分かる文面になっている。

たとえば、「尾道船場かいわい」であれば、「尾道の方言がおもしろく使われて…」であるとか、

初出誌が「別冊関学文芸」であることに気づくと、「わたしは兄について関学のプールに

遊びに行って…」と少年時代の思い出を書いたりと、その大家ぶらない円満な人柄が

現れていた。

年賀状に返事ももらったこともあった。

すべて、くねくねとした特徴的な自筆だった。

これで、存命の「第三の新人」は安岡章太郎さん一人になった。