山地乳(やまちち)
『絵本百物語』から1枚目は「山地乳」です。
本文にはこうある。
《このもの人の寝息を吸い、あとにて其の人の胸をたたくと、ひとしく死すとなり。
されどもあいねまの人、目をさませばかへりて命ながしといふ。
奥州におほく居るよしいひつたふ。》
山ちちは「山父」と書くところもあるそうです。
劫を経た蝙蝠(こうもり)が怪異な形となったもらしい。
人の寝息を吸う。
これに吸われると、誰か近くに寝ていてそれに気づけば必ず長寿になるが、
見る人がいなければ、翌朝には死んでしまうと言い習わしている。
人は心筋梗塞などで夜間死ぬことがある。家族も知らないうちに死んで、朝
死体になっているときなど、
「山ちちが来て、息を吸われたものとみえる。こわや、こわや」と恐れていたらしい。
それにしても、こんなにデカくなるものか。
あの夕方飛んでいる、ちいさな蝙蝠が。
また若い旅人の寝顔は恍惚としている。
西洋の吸血鬼ではないが、山ちちに息を吸われるとき、
恍惚として快感を覚えるものか。