「ライフワークの思想」
「いま東大、京大生が一番読んでいる本」いうキャッチコピーをつけて売られている文庫が
同じ著者外山滋比古さんの『思考の整理学』です。
2冊を立ち読みして比べてみたのですが、こちらの『ライフワークの思想』を買いました。
『思考』の方は大学生が、日頃気にしていることや、レポートを書くときに役立つといったテーマが
とりあげてあるようで、なるほど東大、京大で売れる内容になっているらしい。
なかでも、「整理」「忘却のさまざま」「すてる」といった話が人気だと書評にあった。
『ライフ』の目次をみると、「再考知的生活」とか「忘れる」という項目があって、同じことを
論じてあるらしいので、新しい方の『ライフ』を買ったのです。
平易に、読みやすい文章で、重要なポイントについては、くりかえすことも厭わずに
懇切に論じる本です。
第一章が「ライフワークの思想」です。
平均寿命がのびて、定年後には、いつまでも暮れない薄暮のような時間が延々とつづく。
なにかライフワークといえるものを拵えて、人生の充実期としたいものだ。
ところが聞くところでは、東京都の小中学校長は定年でやめると、平均で2年以内に亡くなっている。
それは定年までに全生命力を消尽してしまい、これから迎えるのが人生のフィナーレだという
思想をもたないからではないか。
西田幾多郎は、京大を60歳で定年になって以後に、彼の業績のすぐれたもののほとんどを
完成したという。
ライフワークとは若い中にバラバラにやっていた断片に、つながりを与えて、すぐれた統一
にしあげることなのだ。
この思想は吉田健一の『余生の文学』を座右の書とするわくわく亭には、文句なしに共感できます。
なにか本でも書くならば、経験とアイデアだけでは不足である。
頭の中にねかせておいて、発酵する時間をあたえることだ。
ときどきのぞいてみて、何か匂ってくるようなら、アイデアと経験が酒のように発酵しはじめたのだ。
そうなったなら、ライフワークにできる準備が整ったと言える。
と、こんなふうに、人生の充実期を迎えるためには、若いときから、材料の仕込みをしておいて
長い薄暮の時間を、自分のフィナーレになるようにする思想をもちなさい、とおっしゃる本です。