カードがあるでしょう?

サイフの中に、カードは何枚有りますか?

持っている人は、数十枚ももち歩いている。

先日もクリニックに行ったとき、お婆さんが受付で診察券を提示するため、カード類をいれた

サイフをバッグから出して探していた。びっくりするほどのカードを持っている。

どれが診察券だか分からなくて、受付の女性に手伝わせることに。


カードはどんどん増える。キャッシュカードやクレジットカードばかりではない。

少し大型の店に行けば、ポイントカードというモノを発行して

いるから、またしても増える。レストランでも、電気店でも、スーパー、コンビニでも、

発行する。

クリニックで診察券をさがして、大騒ぎになるおばあさんのケースは、珍しくない。

ICカードが普及をはじめたから、ますますカードはサイフの中で増殖する。


便利は便利だ。

お金がなくなって、破産、倒産しかかっていても、カードがあれば、やけ酒が飲める。

あるとき、わくわく亭の友人の会社が倒産した。

そうとも知らず、彼の会社のパーティーに遊びに行った。

宴もたけなわになって、彼に呼ばれて、隣の部屋に行くと、

「3日後の今月末に倒産する。お前は長年の友人だから、お前のところの支払いだけは、

きっちり振り込む。だから、会社が倒産した後も、これまで通り、友人のつきあいをしてくれよな」

あっけらかんとして重大事を打ち明けられた。

「3日後だって。それならば、こんな金のかかるパーティーなんかしてる場合じゃないだろう」

「な~に、これがあるから、あと三ヶ月は心配ない」

彼はサイフから数枚のクレジットカードをとりだしてみせた。

へ~え。いい度胸だな~。


わくわく亭は昔からカードは持ち歩かない。

いまサイフにあるのは1枚だけ。パスモという交通機関のICカード。

そもそもカードはつくらない。ポイントカードは女房はもっているが、僕はもっていない。

クレジットカードは1枚だけある。1年に数回使う程度で、年会費を払っているのが

バカみたい。

銀行口座を開設するときに、義理でカードに加入させられるが、あとで届くカードは

ハサミで切って捨ててしまう。

何枚もあると管理がややこしくなるから、1枚で十分、と考えるから。


あるとき、また別の友人が、新宿のアブナイ酒場でぼったくられて、

勘定するのに現金が足りなくなった。

お店のかわいこちゃんが、

「カードあるでしょ。カードがあったらOKよ。となりのコンビニで出せるもん」

なんのカードだったのか。キャッシュカードだったか、サラ金のカードだったのかな?

「じゃあ、ブランデー一本追加するね~」

とまたまた、ぼったくられた。

カードはたしかに便利だ。

パチンコだって、いまはカードで玉を買うんでしょ?

便利は便利だが、カードは凡夫の煩悩を刺激しやすい。くわばらくわばら。


数年前になる。

わくわく亭の会社が税務署の監査をうけたときのこと。

長い不況で国は税収が激減しているから、税務署はなにかみつけて徴税しようと焦りまくっている。

こちらは、公明正大に申告しているから、なにも出てくるはずがない。

それでも2日かけて過去五年の資料をしらみつぶし。

なにもない。

なにもないでは税務署は仕事したことにならないから、まだあきらめようとしない。

若い署員が、

わくわく亭のサイフを見たいとおっしゃった。

カードをどっさり持っていて、そこになにか発見があるかと期待したらしい。

「いいですよ」

ロッカーまで署員はついてくる。ロッカーから上着を出し、サイフを取り出す。

「わたしは触れることが許されていませんので、サイフをひらいてください」といわれた。

「いいですよ」

わくわく亭のサイフにはカードなどないのは、上述したとおりです。

それでも1枚ありました。最近もらったもの。

税務署員は、手で触れないから、顔を触れんばかりに近づける。

「そのカードを出して見せて下さい」

わくわく亭は取りだして、彼の目の前に差しだしました。

「どこのカードですか」と疑いのまなこ。

「数日目に靴を買ったときにもらった、靴屋のポイントカードです」

税務署員の落胆した様子は、じつに気の毒なくらいでした。


そのあとすぐに、靴屋のカードも捨てちゃいました。