高野文子『棒がいっぽん』(2)

高野的「小世界」の特徴が顕著にうかがえる「バスで四時に」をみよう。

マキコさんは4時のバスにのる。

叔父さんのお膳立てで、お見合いをした相手の家にお招きにあずかったのだ。

叔父さんがあいにく遅れるため、彼女は胸をどきどきさせながら、ひとりでバスにのる。

お話は、彼女がバスに乗るところから、車内の不安な気持ち、バスを下りてから、いちど

来たことのある道を歩いて、先方の家近くまできて、出迎えてくれた縁談の相手の男性に

逢うまで。

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UPしたコマを見るとおり、文章や言葉は少なくて、連続するコマの絵で、マキコさんの

不安、心配、はずかしさなどの心理描写をしてゆく。

時間と心理、これをマンガの絵で描くのが高野的「小世界」の繊細な面白さなのだ。

手みやげに買ったシュークリームは8個。先方は3人。自分と叔父さんで2個たべたとして

3個余る。あした、3人でたべるだろう、などと詰まらぬ事を考える。

洋服の首のファスナーが気になったり、足下の椅子のボルトをドライバーで締めつけることを

考えたり、前に座ったお客のシャツの縞柄を見て、積みあげたレンガの壁をこわそうとする

ブタを連想したり、と落ち着かないマキコさんの心理が映し出される。

バスを一停留所早く下りてしまう。遅れると失礼になる。

でも、そんなこともあろうかと一台早めのバスに乗ったのだし。

でも、ここで地震でも起きないかな。それを理由に引き返す理由ができる、などと考える。

そして、結婚することになるだろう相手に出迎えられる。

以上の若い女性の心理劇を巧みに、キュートに描く「バスで四時に」である。