高野文子『おともだち』(1)

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本の装幀はマンが本というより童話本を思わせる。

すみずみにまでレトロな雰囲気を纏わせた造本、装幀なのである。

それは大正ロマンというか大正モダニズムを感じさせたブックデザインである。

なにしろ手の込んだ本で、本好きの嗜好を満たしてくれる『おともだち』なのだ。

目次を開くと、

第一章 日本のおともだち

         盛子さまのおひなまつり
         
         上海の街角で

         春ノ波止場デウマレタ鳥ハ

第二章 アメリカのおともだち

         ボビー&ハーシー

         デイビスの計画

ご覧の5編があるが、全ページの60%ほどを占める「春ノ波止場デウマレタ鳥ハ」が長さにおいても

内容においても一番の読み物である。

           

作者の高野文子さんを知らない人は、「えっ?それでは大正時代の本なの?」とカン違いをするかも。

そうではない。高野さんは1957年新潟生まれで、今年52歳の女性マンガ家。

大正モダニズム感覚を楽しむ本をつくったのである。

「春ノ波止場デウマレタ鳥ハ」をとりあげて、作者がこだわった面白い「仕掛け」を解析してみたい。


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まずごく簡単にあらすじを紹介しよう。

時代は大正初期とおもわれる。その根拠はあとで検証する。

季節は5月。(この季節については意味があるので、あとで再び触れる)

ある港町(その場所はあとで検証する)に両親と暮らす少女「露子」が主人公で、

山の手のお嬢様学校に通っている。

学校では町の開港記念祭のために催すオペラ(というか女学生たちのお遊戯)の準備にいそがしい。

それは当時人気を集め始めた少女歌劇風の舞台で、出し物は「青い鳥」である。

露子はチルチルの役がほしかったのだが、犬の役をもらっていた。

チルチル役をもらったのは、まるで少年のようにりりしい美少女「笛子」さん。

露子はどこか寂しげなカゲがある笛子に接近したいのだが、声をかけるきっかけがない。

笛子の両親はホテルを経営していたが、流行病にかかり避病院に隔離されているらしいと

知る。彼女の叔母はアメリカ人と結婚していたが、いまアメリカ人(異人さん)は来日して

笛子の面倒を見ているらしい。

そんな気の毒な笛子に同情して、ますます露子は笛子に惹かれ、ダンスの練習を理由に

ついに笛子をたずねてゆく。そしてふたりでチルチルと犬がからむダンスを踊る。

そして歌劇「青い鳥」発表当日となる。みごとな舞台を演じるのである。

その後で、露子は両親から笛子の両親が経営するホテルに明かりがついていると聞く。

暗かったホテルに灯が入ったのは、笛子の両親が病院からもどった証拠だろうと思う。

帰途、露子はすべての窓に煌々と灯りを照らすホテルを見た。

しかし、それを最後に笛子は学校に姿を見せなくなった。

ホテルは別の名前に変えられた。

そして、ラストシーンはふ頭で遊ぶ子供達が、アメリカ行きの汽船を見送っている。

                 (2)につづく