ホームレス歌人の入選歌

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朝日新聞には「朝日歌壇」という投稿歌のページがあり、月曜日の朝刊に掲載される。

選者は馬場あき子、佐々木幸綱さんなど4人。

ここに昨年末ころから毎週のように入選を重ねる歌人がいる。

歌人の名前は「公田耕一」さん。

投稿者はハガキ一枚につき1首の歌と住所を明記することをもとめられる。

しかし、公田さんはホームレスであるために、住所が「明記」できない。

選者たちは、住所表記を「ホームレス」とすることで認めることにした。

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 入選歌

(12月8日掲載)   (柔らかい時計)を持ちて炊き出しの カレーの列に二時間並ぶ

(12月22日)    鍵持たぬ生活に慣れ年を越す 今さら何を脱ぎ棄てたのか

(1月5日)      パンのみで生きるにあらず配給の パンのみみにて一日生きる

(1月19日)     日産をリストラになり流れ来たる ブラジル人と隣りて眠る

(1月26日)     親不孝通りと言へど親もなく 親にもなれずたた立ち尽くす

選外となった作品    美しき星座の下眠りゆく グレコの唄を聴くは幻

            百均の「赤いきつね」と迷いつつ 月曜だけ買ふ朝日新聞


第一首の(柔らかい時計)を持ちて、の時計を選者はダリの時計の絵を連想させる、と言っているが、
わくわく亭はそれは「硬い時計」は質に入れたか売ったかして持ってないから、「柔らかい」腹時計
を持って2時間並んだと解釈します。

第三首の「パンのみ」に「パンのみみ」と下の句で受けた諧謔は、歌人の魂が「折れてはいない」
という力を感じます。

「親不孝通り」は横浜関内駅近くに実在するので、歌人は横浜の人らしい。投稿ハガキの消印も
横浜になっているとか。

「百均」とは百円均一のショップのことですが、「赤いきつね」を買うか「歌壇」の掲載された
月曜日の新聞を買うかと、迷う歌人は空腹を我慢して新聞を買ったのです。

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新聞の「歌壇」係では「公田」さんに連絡がとれないかと呼びかけている。

入選1首につき、ハガキ10枚の「投稿謝礼」も「ホームレス」では送る宛先がないからです。