井上雄彦

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井上雄彦(たけひこ)は現代のヒーローになりつつある。

彼は41歳の人気マンガ家であるが、マンガ家以上のなにものかになりつつある。

それは井上雄彦の絵画展のすさまじい人気を聞くだけで想像がつく。

5月24日から7月6日まで上野の森美術館で催された『井上雄彦 最後のマンガ展』

には、全国からフェルメール絵画展に匹敵する、いやそれ以上の、かつてのミロのヴィーナス展

に比べられるほどの熱烈なファンが押しかけたのである。

総入場者数については知らないのだが、朝の7時半に行って、5時間待ちで入館出来たという

ことだから、ディズニーランドや万博の人気スポット並みだったことはたしかである。

およそ100点のマンガ肉筆画を見るために、この人気振りは尋常ではない。


井上の累計で1億冊を超えた『スラムダンク』は読んだことがない。

彼を知ったのは『バガボンド』からである。

バガボンド』は単行本としては28巻が売られており、各巻で平均150~170万冊というから、

これまでの累計販売冊数は4500万冊くらいにはなるのだろう。

物語は吉川英治の『宮本武蔵』を原作にした武道マンガであるが、人物設定は吉川武蔵を下敷きに

してはいても、内容はほとんど井上のオリジナルに近い。


いまさらここで、『バガボンド』の面白さについて書くつもりはない。

興味のある人は、どの巻でもいいから1冊読めば、たちどころにファンになること請け合いである。

ただし、剣戟シーンのあまりにリアルに描かれた「残酷」場面に免疫がないと思われる方は、

敬遠するのがいいかもしれない。


さて、わくわく亭が紹介したいのは井上勝彦が現代の武術家甲野善紀との対談集『武』についてである。

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書きかけにして、何日かたっている間に、今朝の新聞で『響きあう脳と身体』という新刊広告を見た。

武術家の甲野善紀脳科学茂木健一郎の対談集である。

このところ甲野さんの対談集が次々と発行される。

井上雄彦との対談はすでに紹介したが、あの「バカの壁」が記録的なベストセラーとなった解剖学者の

養老孟司との対談『古武術の発見』(智恵の森文庫)もある。

わくわく亭が読んだだけでも、ほかに甲野さんは『古武術からの発想』『武術の新・人間学』(いずれも

PHP文庫)の著書がある。

近代のスポーツ化した柔道や剣道が見忘れてしまった古武術のなかに、そんなことが実際に可能だったの

かと驚くような人間の身体能力を、甲野さんが実践的にやってみせるので、身体について科学している

脳科学、解剖学の専門家たちが、強い関心をもって甲野さんとの対談に応じているのである。

井上雄彦は自分でもバスケットをやってきたスポーツマンで『スラムダンク』を描きながら、人間の

身体はどこまで進化するのだろうか、マイケル・ジョーダンのような運動能力はどのようにつくられる

ものだろうか、と考えていたそうで、そのつぎに「武蔵」の剣術を絵にしながら、武道における身体の

奥深い能力について考え続けていたらしい。

そこで、現代の武術実践家である甲野さんとの対談企画が持ち込まれたとき、ぜひにと応諾したという。

空想や想像ではない、人間に可能な身体の動きは、どこまで極められていたのか。

伝説的にしか理解していなかった剣豪たちの能力は、どこまで事実だったのか。

それらが井上雄彦甲野善紀さんとで、とことん語り合っている本が『武』(宝島社)である。

おもしろい内容だった。

井上雄彦が対談で語っている「バガボンド」で何が書きたかったのか、という動機や、現代の若い

読者に「武蔵」の何を伝えたいのか、という井上雄彦の本音など、稿を改めて書くことにする。

(下の2枚の写真は宝島社の本『武』から)
             
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