福岡正信さんの訃報

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8月16日に福岡正信さんが亡くなられた。95歳で老衰と報じられた。

福岡さんは現代日本の偉人の一人だと、かねてからわくわく亭が尊敬していた自然農法の提唱者だった。

氏の『自然に還る』『無』という著書を読んで心酔した。

NHKの教育番組や「心の時間」などで福岡さんの自然農法の実践と日常生活がとりあげられると

気がつけば、欠かさず見ていた。

福岡さんの偉大さは書斎の中の哲学者や、寺院の中の宗教家などとは違い、自然農法という

農業を実践しながら、その中から学び取った自然観、宇宙観が哲学や宗教にまで深化していったもので

「実践者」という強みにある。

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大著『無』は3部作であるが、その副題を並べるだけで、福岡さんの思想の姿はみえてくる。

第一部「神の革命(宗教編)」

     一切の価値、人知、人為を否定。無為自然を説く現代の老子

第二部「無の哲学(哲学編)」

     デカルト以来の近代の哲学者をなでぎりにし、無と悟りを語る

第三部「自然農法(実践編)」

     米麦、野菜、果樹の全体にわたって、自然農法の実際を公開

耕さない、肥料をやらない、農薬をつかわない、除草をしない、徹底的になにもしないで豊かな

収穫が得られる自然農法を、身をもって実践し、それをアジア、アメリカ、ヨーロッパなど

世界中で提唱し、成功してきた。

愛媛県伊予市の福岡さんの農場には、世界中から自然農法を学ぶために若者が訪れ、彼の「弟子」とな

って帰国実践している。

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この写真は、『自然に還る』から拝借したものだが、オランダで福岡さんが指導して成功した

自然農園の写真である。リンゴとナシを自然形に植える実地指導の写真。

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これもオランダの自然農園で、各種野菜の混植。白菜、キャベツ、大根、カボチャを植えて成功してい

る。後方はリンゴである。

自然農園の特徴は、こうした混植である。

世界の大規模農場はすべて、人工的な単一植物の農場であり、それが自然な土地を破壊してきた。

コーヒー、サトウキビ、大豆、トウモロコシ、バナナ、小麦、米、と単一植物の大量生産方式が、

自然のシステムを毀して砂漠化をすすめてきたのである。

人工的な単一植物農園を維持するために、大量の肥料と農薬が長年月散布しつづけられ、土地は

死んでしまい、それが砂漠化現象なのだ。

本来の自然は混植である。混植に還れ。そうすれば、肥料も農薬も必要としない自然農園が

人間のはからいなくして生まれ出てくる。

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この写真は「不耕起直播」(ふこうきちょくはん)の農園。

田植えをせず、種籾をじかに土地に播いて米を作り、刈り取るまえに麦の種を播く方式。


農業技術や灌漑施設の無いアジア諸国で、この方法が大成功をおさめた。

フィリピンでは「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を受賞したし、インドでは

インド最高栄誉賞を受賞したのである。


アジアやアフリカの荒蕪地帯、砂漠化しつつある地帯で、福岡さんが提唱した「粘土団子」が

普及している。

それは粘土でこしらえた団子に100種類の樹木や果実、穀類の種を混ぜ込む。

あとはバケツや籠にいれて、散布して歩くだけである。

その土地の環境で生きられる種が、何ヶ月、何年と辛抱強く待って雨が降った後で芽生える。

人間がなにもしないでも、自然が自然を再生する。人間はそれを待てばいい。

福岡さんの農園では、米麦や穀類や野菜の種を混ぜた粘土団子をこしらえて、ぽいぽいと播いて

いるのだった。

こうした自然農法から、福岡さんの哲学が生まれた。ただ自然に還って、自然の力にまかせてしまえ。

そうすれば、自然は人類を生かせてくれる。自然を改造して人間の思惑通りに征服しようとした

デカルト以降の人間中心の近代科学主義が自然環境を破壊して、人類を破滅の道へと追いやってきたのだ

と説くのが福岡さんの思想だった。

人間はなにもするな!自然にまかせろ!


その思想は親鸞浄土真宗がとなえる「人知のはからいなどするな。すべてを南無阿弥陀仏ととなえて、

阿弥陀さんにお任せしてしまいなさい」という思想に通ずるように思います。

「はからいをするな」ただ種を播いて、あとは自然の運行におまかせする。

福岡さんがアフリカのソマリヤで砂漠に大根やトマトの種まきに行くと、こどもたちが一番協力的だった

そうです。

福岡さんの説明する英語は「ワンガラナイ(わからない)」といいながら、種まきをしてくれる。

それを福岡さんは『ソマリヤ讃歌』という詩に書いた。

砂漠でじいさん
  じいさん種まいた

大きな大きな
  大根できました

ソマリヤすずめがおどろいた
  なんで?
  なんで?
  大根白いのか

ワンガラナイ ワンガラナイ ワンガラナ