太明成化年製

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古書店で買った志賀直哉の文庫本で、何十年ぶりかで『万暦赤絵』を読んだのだが、

それでこの、わが家の「赤絵」をUPすることを思いついたというわけ。

「万暦赤絵」とは中国明代の万暦年間に景徳鎮の官窯で焼かれた磁器のうち、華麗な赤い絵を

施したものをいうのである。

わくわく亭にある、この赤絵の蓋付き鉢には「万暦」ではなくて、「太明成化年製」という銘が

高台のうちにはいっている。

明代の成化年間製という表記なのだが、もちろん中国明代のしろものではない。

では、にせものか、というと、単純にそうとも言えないのである。


明代景徳鎮の陶磁器はヨーロッパの貴族たちの間で、大変に珍重されていた。そこで日本の伊万里などの

窯元ではヨーロッパへの輸出用として景徳鎮の模倣品をつくった。その模倣品に「大明年製」などの

銘をいれたのである。

古伊万里のなかに、そうした輸出用の銘をもった逸品がたくさんあるのである。

万暦は明代も終末期であるが、それより前の1465~1487年の成化年間は、すぐれた陶磁器が

つくられた時代であることから、伊万里焼の窯元では「成化年製」銘をとくに好んだ。

そこで「大明成化年製」「太明成化年製」「成化年製」などの異なる銘が、

時代によって用いられたのである。

さて、わが家にある「お宝」である。


江戸末期から明治時代にかけて、輸出用に大量に作られたものの一つだろうと思われる。

中島誠之助先生に鑑定してもらったわけでもないが、骨董品としての価値は知れている。

それよりも、わくわく亭の女房が、よくこぼすことがある。

女房が結婚してわが家にきたとき、

「おかあさんが、この鉢にお漬け物をいれて出したから、びっくりしたのよ。あかあさんは

使った後、磨き粉をタワシにつけてゴシゴシ洗っているから、お母さん、これはそんな使い方

するものじゃないんです、と話したのよ」

母は、父が買ってきた骨董や焼きものを、どんなものでも飾り物とせず、実用品として

使っていたらしい。

いかにも、わくわく亭のおふくろらしいのである。

というわけで、UPした「太明成化年製」銘の赤絵鉢は、タワシのあとが立派に残っている。