乙女ちゃん

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短編集『エンド・オブ・ザ・ワールド』の5篇中、ラストの作品なのだが、順序が前後するけれど、
ここでとりあげる。

これ、とても面白いパロディなのだ。

パロディのネライに気がつかないと、つまらい作品に見えるよ。

たしかに一見したところ、ストーリーは5篇中もっとも月並み。
岡崎京子作品とも思われないほど平凡。

定年後の父と、未婚の娘と、バンドをやっているらしい大学生の弟との3人の家庭。
母親は死んでいる。
結婚話が持ち込まれても、28歳の娘は父と、弟(この2人は仲が悪い)を気遣って、
いい返事をしない。

ある晩、弟がキレて、父を責める。理由は、定年となってから、父は(死んだ母のものだったのだろう)
スカートをはいて、毎日パチンコに行く。そのみっともなさを責める。
近所では、みんなが父を「乙女ちゃん」と呼んでバカにしているからだ。

弟は姉に、おれたちのことはほうっておいて、結婚しろよ、という。
彼女の職場のまじめな男性が、その相手だ。

父が帰ってこないから、自殺でもするのではと息子と娘がさがす。

そして3人が、無事に、つれだって帰ってくる…。


「な~んだ、つまんね~」と若い読者は他のバイオレンスとセックスをテーマにした刺激的作品と
比べて、がっかりすることだろう。

ちょっと、まった。

この「乙女ちゃん」はある映画のパロディなんだ。

UPした一番初めのコマ、縁談話をもってきた「志げ」おばさんと主人公「紀子」の会話シーン。
これ一枚で、

「あっ、岡崎京子さんは小津安二郎の映画をパロディにしたな、やるじゃん」となる。

小津監督の「紀子」もの三部作、中でも『東京物語』を意識したパロディだ。

娘は(映画では原節子が演じた)紀子。

父親の名前が平井。

弟の名前が幸一。

↑「志げ」おばさんは、杉村春子さんなのだ。

となると、「乙女ちゃん」とアダナされている父親は笠置衆か?

つぎの1コマを見よう。

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「母さんは幸福だったんかのう」というセリフは、笠さんの“尾道弁”ではないですか。

顔がどことなく笠さんに似ている。

「志げ」の顔が若いころの杉村春子さんに見えてくる。

「紀子」までが、原節子さん(?)かな、となってくるから面白い。


ハハハ、やってくれますね、岡崎さん、あなたひょっとして、意外なことに、

セックスとバイオレンスからもっとも遠い“小津安二郎の世界”のファンだった?

岡崎京子さんの遊び心の粋な一面が楽しめる作品です。

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