太宰治

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太宰治のスナップとしては、とても有名な写真となった。
写真家林忠彦さん(1918~90)が銀座のバー「ルパン」で1946年に撮影したもの。

戦後文学の旗手、無頼派作家3人による座談会というものが出版社によって企画されたことがある。
その3人とは大阪から上京した織田作之助と在京の太宰治坂口安吾だった。

座談会の後で、彼らは作家の溜まり場として知られた「ルパン」へやってきた。

林さんが織田作を撮っていると、「織田作ばかり撮ってないで、俺も撮れよ」と太宰治がいったので、
さいごのフラッシュバルブをつかって撮った写真だそうだ。

太宰はいつものように、気取ったり照れたりもせず、めずらしくリラックスした自然体だった。
戦争が終わった翌年末であるから、彼は軍靴を履いている。

写真右上の黒い影が坂口安吾の左腕であり、太宰は気分良く酔いながら、指にタバコをはさんで、
安吾に話しかけている瞬間である。

この「ルパン」で林さんが撮影した織田作の写真も有名になった。

さて、今年は、太宰治が没して60年。今年も三鷹禅林寺で催される桜桃忌(6月19日)にはたくさんの太宰ファンが全国から訪れたもよう。

わくわく亭は23歳で上京して、中央線の三鷹から一駅の武蔵境から通勤していたから、
田無のアパートに落ち着くと、さっそく三鷹で途中下車して禅林寺へ行き、
太宰治森鴎外の墓へ参ったものだ。

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朝日新聞が「太宰治と私」という特集記事を、東京版で8回の連載を行った。
太宰にゆかりのある人々へのインタビュー記事なのだが、それぞれに好きな作品ベスト3を
語らせているのが面白い。好きな理由は( )内。

それを紹介します。

林聖子さん(80)短編「メリイクリスマス」主人公シヅエのモデル
     ①魚服記(太宰の師・井伏鱒二の作品を連想させる)
     ②津軽(健康的な感じがいい)
     ③お伽草紙(ユーモアが抜群の作品)

長部日出雄さん(73)太宰の伝記を書いた作家
     ①お伽草紙(ユーモア小説の金字塔)
     ②津軽(フィクションの天才を鮮やかに証明した作品)
     ③富嶽百景(立ち直る過程を澄み切った風景の中で展開)

松田哲夫さん(60)筑摩書房専務
     ①十二月八日(冷静に開戦見つめリアルタイムで発表)
     ②トカトントン(虚無感と突き抜けた奇妙な明るさ)
     ③満願(映像的でわざとらしくない明るさが心を打つ)

矢野勝巳さん(54)三鷹市太宰治文学サロン館長
     ①お伽草紙の「カチカチ山」(パロディーの代表作)
     ②ろまん燈籠(兄妹が一つの物語をつづる方法が秀逸)
     ③ヴィヨンの妻(戦後の家庭を描いた秀作)

渡部芳紀さん(67)中央大学文学部教授
     ①老ハイデルベルヒ(人間への愛情があふれている)
     ②新樹の言葉(単純、素朴な人間の魅力を描いている)
     ③パンドラの匣(健康で前向きに生きる姿勢がいい)

駄場みゆきさん(42)太宰治から命名した古本カフェを営む
     ①斜陽(すべてのページが美しい)
     ②フォスフォレッセンス(最後を読者に委ねている)
     ③ヴィヨンの妻(主人公のような女性になりたい)

加藤典洋さん(60)太宰を研究する文芸評論家
     ①お伽草紙(笑わずにいられない文学としての傑作)
     ②姥捨(太宰が一番正直な声を上げている作品)
     ③津軽(太宰の素直な、人恋しい面がよく出ている)

平野啓子さん(47)太宰作品を朗読する元キャスターの語り部
     ①走れメロス(信じ合う心とハッピーエンドがいい)
     ②満願(秘密めいた大人の作品で明るくさわやか)
     ③お伽草紙(パロディーと太宰の遊び心が秀逸)


以上を、順位は計算にいれず、回答票数だけでランキングをつくると、つぎのとおり。

     ①お伽草紙   5票
     ②津軽     3票
     ③満願     2票
     ③ヴィヨンの妻 2票

お伽草紙が人気ベスト1になりました。

参考までに、わくわく亭が好きな3作をあげるとしたら、こんなところです。

     ①津軽
     ②富嶽百景
     ③お伽草紙 

順番に違いはありますが、上の長部日出雄さんと同じ傾向になりました。
すべての太宰作品から一つだけ選べといわれたなら、「津軽」ですね。

さて、みなさんは、いかがでしょうか?