三島由紀夫『橋づくし』(1)
鏑木清方の画集『築地川』から、その絵に描かれた場所を特定するために、先月、わくわく亭は京橋から毎日のように築地川沿いを散策していました。
それが一段落したものですから、つぎにとりかかるのは、三島由紀夫の小説『橋づくし』に描かれた橋めぐりです。
7つの橋をすべてめぐって、昭和31年に小説が発表されてから、今日までどのように風景が変貌したかを実見しようというこころみです。
歩く道筋は築地川に架かった橋から橋をたどるのですから、鏑木清方の「築地川」巡りと重なります。
ただし、清方の画いた風景は木挽町から鉄砲洲、佃までとかなり広い範囲に及びましたが、三島の『橋づくし』が描く情景はその7つの一連なりの橋の周辺に限られます。
清方「築地川」探訪とは違った視点で、『橋づくし』漫歩をしてみるつもりです。
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小説『橋づくし』が文藝春秋に発表されたのが昭和31(1956)年です。
1925年生まれの三島由紀夫は、この写真が撮られた時31歳でしたから、丁度小説執筆のころのものです。
小説の粗筋を紹介しておきましょう。
陰暦8月15日の夜、銀座板甚道の芸者が2人、新橋料亭の娘と女中との4人が、それぞれの「願」をかけるために、築地川に架かる7つの橋をわたるという行(ぎょう)をする。 願掛けの約束ごととして(1)おなじ道を2度通ってはいけないということ。(2)7つの橋を渡りきるまで口をきいてはいけないということ。 月の照りわたる東京の深夜、花柳界の女たちが願い事を胸に7つの橋をわたっていって、 はたして誰が最後の橋を渡りきることができるのか、と読者の興味をひっぱってゆくという趣向になっている。
文庫のページ数にして20ページという、ごく短い作品です。
作者自選の短編集ですから、解説も三島由紀夫自ら書いています。いかにも自分の才能に自信満々だった彼らしい解説です。
『橋づくし』については、
《もっとも技巧的に上達し、何となくおかしい客観性を、冷淡で高雅な客観性を、文体の中にとり入れ得たものだと思っている。》
《自分を故意に一個の古風な小説家の見地に置いて、いろんな世界を遊弋(ゆうよく)しながら、ゆったりと観察し、磨きをかけた文体で短編を書くという、私の脳裡にある小説家のいわばダンディズムから生まれたものだ。》
わくわく亭もどこかで、《短編小説はこうしたダンディズムの所産である》などというカッコイイ科白を使ってみたいものです。
では、そろそろ、一番目の橋へと参りましょうか。
よろしければ、どうぞ、わくわく亭とごいっしょに。