レコード店で買えないCD
「ベスト・セレクション 山口百恵」
ソニー・ミュージックダイレクトが7月に発売した音楽CDが、好調な売れ行きだそうである。
VOL.1とVOL.2とで各16曲を収録して2枚そろえれば、百恵ちゃんのシングルA面曲の
すべてがそろうということだ。〈秋桜〉〈いい日旅立ち〉などなど……。
「懐かしい。久しぶりに、ちょっと、駅前のレコード店で買ってくるか」という中高年、
あるいは団塊世代のかたには、ご注意もうします。
「このCDはレコード店では買えません。売っていないのです」と。
「えっ!レコード店で売らなくて、じゃあどこで売ってるの?」
「まず車に乗って、高速道路へ入ってください。サービスエリアまで走って、そこのショップ
をのぞいてください」
「うちの近くには高速道路はないよ」
「それでは、ホームセンターはありますか?ある?それならホームセンターの催事コーナー
のような場所で買えますよ」
なんと面倒な売り方をするのだろう、と疑問に思った方は、現在の音楽業界の苦境を
ご存じないのです。
CDシングル売上100万枚達成が、ほんとに久々に出て、ニュースになった。浜崎あゆみでも
宇多田ヒカルでもドリカムでもなくて、「千の風になって」だった。
もう100万枚は、どんなビッグなアーティストでも困難な数字になってしまった。ファンが
CDを買わなくなったからである。
CDをレンタルしてきて自宅でコピーするからか?それもあった。しかし、決定的な構造的
変化は、音楽は携帯機器に「ダウン・ロード」して聴くものになったからである。
CDの売上は年々前年比で激減しつづけ、いまでは音楽の購入方法で、CDを買って聴く人
の割合は日本で70%くらいになっている。
イギリスではCDを買って聴くという人の割合は30%にすぎない。
アップルをはじめ、ソニーなどがダウンロード用の携帯音楽機器を続々と発売しているし、
ケータイ電話がそうした機能を装備しつつある。CDは30%に、いや20~10%へと
減少してゆく運命ではないのか。
音楽CD会社は、売上の減少に怯えている。大手の外資系CD・レコード販売チェーンが、
撤退していったし、街のCD店は姿をけしつつある。
音楽CD各社はどうやってCDを売るか、必死に知恵を絞っている。
その苦肉の策のひとつが、山口百恵ちゃんの「ベスト・コレクション」を従来のレコード店ルート
で販売しないで、新しい販路を開拓するべく、上記のような場所での販売ということらしい。
そんな場所で、いかなる購買客を期待しているのか。
「ターゲットは団塊世代を含む40~60代で、音楽CDをよく買うという世代ではない。
かれらが立ち寄る先を販路に設定した。たまたま通りかかった客にも瞬時に関心を
もってもらえるよう商品に工夫をこらした。
タイトル、曲名、歌詞カードは大きい文字で表示する。ジャケットの背表紙は白地にして、
日光に当たる売り場でも日焼けしにくいよう配慮した……」
とソニーは話す。
ふ~ん。工夫、配慮は、わかるが、なんともコメントしにくいな。
「レア感を強調して、Jポップの新譜のように大ヒットする商品ではないが、
毎日一定量が売れる」のだそうである。
どれほどうれているのだろうか。
同社によれば、「発売日の7月20日から9月末までに、VOL.1と2の合計で
おかげさまで好調に約7万枚出荷しました」
出荷は売上とはべつのことだろうが、苦労の様子がありありとみえる。
音楽も映像もネットでダウンロードして買う時代になるのだろう。
そのあとには、新聞も、書籍もつづくかな?
手ざわりの「もの」が媒介しなくなるって、なんだか味気ない気がするのは、
わくわく亭も「時代遅れの男に」なりつつあるか。