『湾』の石山淳さん
石山淳さんから詩の同人誌『湾』26号が届いた。
石山さんはこれまでに、すでに8冊の出版された詩集をもつ、円熟期の詩人です。
そのうちの1冊が写真の『石山淳詩集』で、2007年1月、日本図書刊行会の「トレビ文庫」から発行されたもの。
『湾』には2篇の詩が発表されていますが、「野生の呻き」を紹介しよう。
詩人はつい先年、母親を亡くしている。母親の年齢は90をいくつか越した高齢で、長く介護の苦労があったと聞いている。
どんな手厚い介護をしていたとしても、息子は耳の底に残る母親の苦痛の声を、母の死後も夜明けには聞いている。
母の苦痛を救えなかったという罪の意識がある。自分に偽善はなかっただろうかと、その声に脅えるという。
せつない人間の生の営みである。
わくわく亭も、2年前に91歳の母を亡くしたところであり、詩人の気持ちは他人事ではないのです。
〈野生の呻き〉
地の底から這い上がってくる
獣の呻き声が
夜明け前の
ある時刻になると聞こえてくる
それは均衡を保てなくなった
精神の表象であろうか
闇に包まれた
密室の中では
ミドリ色の蛍が
幽かに光っている
半覚醒の意識の内で
野生に目覚めた獣の呻きが
又しても這い上がってくる
その声は
嗚咽と混ざり合って
母の 死の 直前の
悲痛な呻きに変わっていく
人間から 獣へ
言葉が発せなくなった母は
野生に乗り移ったのであろうか
母の苦痛に対応できなかった
罪の意識からか
わたしの善の仮面は剥がれ
獣の呻きに
今日も揺らぎ脅えるのである
(2007.7.26)
石山さんはこれまでに、すでに8冊の出版された詩集をもつ、円熟期の詩人です。
そのうちの1冊が写真の『石山淳詩集』で、2007年1月、日本図書刊行会の「トレビ文庫」から発行されたもの。
『湾』には2篇の詩が発表されていますが、「野生の呻き」を紹介しよう。
詩人はつい先年、母親を亡くしている。母親の年齢は90をいくつか越した高齢で、長く介護の苦労があったと聞いている。
どんな手厚い介護をしていたとしても、息子は耳の底に残る母親の苦痛の声を、母の死後も夜明けには聞いている。
母の苦痛を救えなかったという罪の意識がある。自分に偽善はなかっただろうかと、その声に脅えるという。
せつない人間の生の営みである。
わくわく亭も、2年前に91歳の母を亡くしたところであり、詩人の気持ちは他人事ではないのです。
〈野生の呻き〉
地の底から這い上がってくる
獣の呻き声が
夜明け前の
ある時刻になると聞こえてくる
それは均衡を保てなくなった
精神の表象であろうか
闇に包まれた
密室の中では
ミドリ色の蛍が
幽かに光っている
半覚醒の意識の内で
野生に目覚めた獣の呻きが
又しても這い上がってくる
その声は
嗚咽と混ざり合って
母の 死の 直前の
悲痛な呻きに変わっていく
人間から 獣へ
言葉が発せなくなった母は
野生に乗り移ったのであろうか
母の苦痛に対応できなかった
罪の意識からか
わたしの善の仮面は剥がれ
獣の呻きに
今日も揺らぎ脅えるのである
(2007.7.26)